後の領主、受付嬢に冒険者登録をさせる

 さっそく依頼をやりにやって来たサテラの街のすぐ横の草原。

 初心者請負人の本領発揮のはずなんだが……。


「薬草取りに俺の経験値5倍の支援効果が効かねえ!」


 そりゃそうだ。

 俺の『経験値支援効果』はあくまでも『経験値』が対象。

 薬草取りは戦闘なんて発生しないから得られる経験値はゼロ。

 ゼロは何倍にしてもゼロのままだ。

 肝心のギルドポイントは経験値じゃないので支援効果が効くわけがない。


 おまけに薬草取りって思った以上に大変なことがわかった。

 敵を倒す依頼じゃないので、俺たちが強くても全く意味なしだ。

 初心者と同じぐらいの稼ぎしかならない。

 他にあるFランク依頼と言えば『ドブさらい』や『配達』とかろくな依頼がない。

 これどう考えても冒険者がやらなくてもいい仕事だよね?


「それには理由があるんですよ」


 理由を説明してくれたのはコットンさんだ。

 受付嬢をしてるだけあってそのあたりの事情に詳しい。


「たしかにFランクの依頼は冒険者がやらなくてもいい仕事です」

「じゃあなんで薬草取りやドブさらいをやらせるんだ?」

「あくまでも初心者冒険者が依頼の受け方を覚えるためのものなんですよ」


 へー。

 そんな意図があったのか。

 今度、他の初心者を育てる機会があったら豆知識として得意げな顔をして教えてやろ。


「詳しいな」

「ラネット先輩の受け売りなんですけどね」


 なるほどねー。

 ラネットさんは本当に詳しい。

 受付嬢を始めてすぐの頃は俺が教えることもあったんだけど、数日で俺の知識を超えたぐらいの勉強家だ。

 今思うと冒険者を続けることを完全にあきらめて本気で受付嬢になろうとしてたんだな。

 俺が感慨にふけっている横で、モニカは不満を漏らしていた。


「なんで私が草むしりをしないといけないんだ。こんな依頼やりたくないぞ」

「モーちゃん、次のEランクからは戦闘依頼だからもう少し頑張ろ」

「本当か?」

「少しの我慢だよ。地道にやろうね」


 ちなみにビアンカの言うもう少しとは依頼8回分だ。

 急いで依頼をこなしても依頼一回に3時間ほど掛かるのですぐには終わらない。

 これは辛いな。

 俺は少しでも早く依頼を終えようと薬草の生えてそうな草むらで片っ端から鑑定しまくる。


「これと、これと、これと、これが薬草だな」


 渋々薬草を摘み取るモニカ。


「いつまでこんなことをしないといけないんだよ?」

「Eランクに上がるまでだ」

「そのEランクに上がるのにどれぐらい掛かるんだ?」

「一日3回依頼を達成して三日ぐらいかな?」

「三日も草むしりをしないといけないのかよ!」


 さすがに俺も三日続けて薬草取りをしたくない。

 第一、Eランクに上げるのに三日もかけていたら初心者育成期間の5日間の日限に間に合わないぞ。

 一回目の納品ついでにラネットさんに相談してみた。


「あんたが一緒なんだからDランクの依頼を受ければいいじゃない?」

「えっ? そんなこと出来たの?」

「パーティーに参加して依頼を受けるなら2ランク上の依頼まで受けられるわよ」


 その手があったのか!

 最近は殆どソロで冒険者活動をしていたのですっかり忘れていた。

 なんという間抜けだ。

 こんなことじゃ『初心者育成請負人』の二つ名を返納しないといけないな。


 *


 ということで新しく受けた依頼はEランクの『ウサギ肉の納品』依頼だ。

 これなら俺の経験値支援効果が効く。

 コットンさんのレベルも上がり、難易度の高い依頼を安全に受けられるようになるはずだ。

 ちなみにDランクにはもっと稼げそうな依頼があったけど、移動に時間が掛かるから受けなかった。

 モニカがドラゴンになって移動すれば狩場まであっという間だ。

 でもコットンさんにはモニカがドラゴンということを隠しておきたかった。

 ドラゴンだもんな。

 モニカ自身は友好的ではあるもののバレたら間違いなく騒ぎになる。

 なので近場で出来る依頼にしたのだ。


 皆でウサギを捕まえてきて即席の木の柵で作ったバリケードの中に入れてウサギとコットンさんを入れる。

 コットンさんがこの中で弓でとどめをさ刺すようにしてもらう。

 弓の練習のためにあえてそうした。


「ウサギさんごめん!」


 そういって弓を射るが仕留められなかったウサギから反撃を受けた。

 ウサギの得意技の体当たりだ。

 『ドゴッ!』といい音を立てお腹に頭突きと蹴りのコンボが食い込む。


「くはっ!」


 コットンさんはお腹を抱えて崩れ落ちた。

 そしてウサギは逃げ際にコットンさんの顔を両足で蹴っていった。

 ウサギも弱い者には容赦ないな。


「痛い! なにするのよ!」

「ぷぐー!」

「そっちがその気ならこっちも本気でやってやろうじゃないの!」


 コットンさんは矢を連射しまくりウサギを仕留めまくった。


 *


「はあ、はあ、はあ、全部倒したわ」

「頑張ったな」


 俺が褒めてやると顔を赤らめる。

 今まであんまり褒められることが無かったのか、俺に褒められたのが嬉しかったようだ。

 身体を震わせながら喜んでいる。


「あ、あんたの為じゃないんだからっ! ラネット先輩のためなんだから……」


 指どうしを突き合わせてモジモジしている。

 それをみたメイミーはなぜかライバル心を燃やす。


「私もごしゅじんさまのためにウサギを狩ってきます!」


 結構な勢いで草原を走り回りウサギを狩りまくって来た。

 結果、コットンさん32匹メイミー37匹。


「へへーん! 私の勝ちですよ!」


 コットンさんに勝ち誇るメイミー。

 なんというか……、今日冒険者を始めたばかりの相手に本気出すなよ……。

 でもかわいいので許す。

 ちなみにモニカは300匹ぐらい狩っていたのはメイミーには内緒だ。


 *


 こうして俺たちは70匹近いウサギを抱えギルドへと戻る。

 ギルドに納品をすると、ラネットさんが感心していた。


「すごい数ね。頑張ったわね」

「ラネット先輩のために頑張りました!」

「そうなのね、ありがとう。ランクが上がってEランクになったわ」

「お、よかったな。おめでとう」

「えへへ」


 ラネットさんに褒められて顔をだらしなく崩すコットンさんであった。


「じゃあ、ギルドカードを貸して」

「新しいステータスの書き込みですね」

「このステータスの書き込みは重要なのよ。ランクだけじゃなくギルドカードのステータスを見て依頼が達成出来るのか判断する材料にするのよ」

「なるほどです」


 聞くとコットンさんは今までギルドカードを受け取っても見るのはランクとレベルだけでステータスまでは見てなかったらしい。

 受付嬢として少し成長したコットンさんなのである。

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