後の英雄、嫁からの依頼を受ける

 俺は依頼票を見る。


 依頼主:ラネット・アルティヌス

 依頼場所:クローブ

 依頼内容:レッドドラゴン討伐

 推奨ランク:F

 報酬:50万ゴルダ

 備考:クローブの町で暴れまわっているレッドドラゴンを追い払ってください。


 確かに依頼主はラネットさんのようだ。

 なんだけど……。

 依頼主がラネットさんというのが引っかかる。

 ラネットさんなら俺がドラゴンを倒せないのぐらいは知ってるはず。

 なのになんで俺に指名依頼?


 それに推奨ランクもおかしい。

 ラネットさんぐらい冒険者ギルドに精通している人なら、ドラゴン討伐がSランクの冒険者かAランクの多数の冒険者に依頼を出す案件ぐらいは知っているはずだ。

 それがなんで初心者冒険者向けのFランクの依頼として発行されてるのかが謎。


 更に言うとドラゴン討伐にしては報酬安過ぎね?

 達成条件は『追い払うだけ』だけど、普通なら少なくとも数百万の報酬が支払われるはずだ。

 それをラネットさんが知らないはずがない。

 

 うーん、怪しさがぷんぷん臭う依頼だ。


「ごしゅじんさま、これは怪しい依頼ですね」

「受けたらヤバいとわかる依頼だな」


 メイミーもモニカも受けない方がいいと言っている。

 この依頼主が本当に俺の知るラネットさんなのか確認してみる。


「ええ。おっしゃる通り、依頼発行主はサテラの街の冒険者ギルドで職員をしているラネットさんで間違いないですね」


 ラネットさんであることは間違いないようだ。

 ならばなぜこんな依頼を発行したのか謎が残る。

 でもな、俺はこの依頼を受ける!

 困っている嫁の依頼だ。

 嫁が困っているのなら断れるわけがないだろう。

 俺たちはクローブの街へと向かった。


 *


 馬車で丸一日かけ目的地のクローブの町に到着。

 メイミーの他にモニカまでちゃっかり着いてきている。

 これよりも先に人の住む村のない辺境の町だけど人口300人ぐらいの町とそれなりに発展はしている。

 ただ、建物の数に対して圧倒的に住民が見当たらない。


「人がいないですね」

「ほとんどの店が閉まってるし」

「逃げた後なのかな?」


 町は人通りも少なく閑散としていた。

 ドラゴンに襲われた後だから別の町に避難しているのかもしれない。

 まあドラゴンに襲われた後にしては焼け焦げた家もなく壊れた家も少ない。

 少し不思議な感じのする被害状況だった。


 *


 町を一望できる高台にある領主邸についた。

 領主邸といってもかなりこぢんまりしている。

 ちょっと大きな豪商程度の屋敷だ。

 出てきたのは50代初めの紳士だった。


「わざわざ長旅をして依頼を受けて来てくれたと言うのですね。助かります」

「いえいえ」

「私はこの領地、アルティヌス辺境伯領のアレン・アルティヌス。私のことはアレンと呼んでくれ。君はラネットの婚約者になるというラーゼル君だな」


 どうやらラネットさんから話を聞いていたみたいで、俺が婚約者ということを知っていたようだ。

 思ったよりも嫌な顔をされなくてホッと胸をなでおろす。


「はい、ラーゼルです。ラネットさんと結婚したいと思っています。お許し頂けますでしょうか?」

「うむ。こちらこそラネットのことを頼む」


 ラネットさんは貴族の娘だったのか。

 とは言っても辺境伯。

 便宜上、辺境地方の維持と防衛のために置いた警備長に名目上だけの爵位を与えた貴族。

 貴族の地位的にはかなり低いと聞いた。

 この屋敷の内装を見ても至って普通。

 バルト邸のような豪華なインテリアはなく威圧感は全く感じない。

 そういえばラネットさんの姿が見えないんだだけど、どこに行ったんだろう?


「ラネットさんはどこにおられますか?」

「えーっと……ラネットはいま花嫁衣裳の寸法直し中で……」


 目が泳ぎまくっている。

 明らかに嘘だ。

 その時!


『ドバーン!』


 ラネットさんが扉を激しく開けて入ってきた。


「父上! 嘘はいけない!」


 身体じゅうに包帯を巻き、松葉杖をしながら……。

 かなり痛々しい姿だ。


「ラネットさん、どうしたんですか? それにその足は?」

「ちょっと怪我をして……」


 よく見ると腕まで折れてるし!

 その怪我を『ちょっと』とは言わない。

 大怪我じゃないか。

 俺はメイミーにハイパーポーションを渡し、ラネットさんに飲ませてやるように頼んだ。


「ありがとう」


 ポーションを飲み干すと怪我が一気に回復。

 すぐに包帯を取り去った。

 これでもうラネットさんの怪我は完治で心配ない。

 よかった。

 ラネットさんはあきれ返ったように言う。


「ラーゼルさん、わざわざ私の実家にまで出向いてもらって申し訳ないです。我が父のバカさかげんを聞いてやってください」


 アレンさんは話したくなかったみたいだけど、全快したラネットさんに杖で何度もぶん殴られまくるとしぶしぶ話し始めた。

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