6 対決! 巨大ダンゴムシ!

 ――カシュカシュカシュ。

 という音は、そいつの装甲みたいな身体表面が変形する音。


 ――ゴワシャゴワシャゴワシャ。

 という音は、無数の節足が地面をなでる音。


 ――フシュフシュフシュフシュ。

 という音は……なんだろう。口から息を吐いてるのかな?


 俺の目の前には、自動車サイズのダンゴムシがいた。


 きもっ!

 元の世界では、虫とかべつにそこまで苦手だったわけじゃないんだけど。

 これはさすがにキモい。

 デカすぎるし。

 足の動きとか、すごくはっきり見えちゃうし。


 まあ、ただキモいだけならいいよ。

 しかしこいつはそうじゃない。

 だって、俺がいまいる場所に突入してくるために、こいつ岩をぶっ壊したからね?

 表面の装甲はテッカテカ黒光りして金属みたいだ。

 たぶん、俺の身体である鎧より、よっぽど丈夫だろう。

 俺のは、大ネズミの体当たりで穴が空いちゃうくらいだからね。

 こんなのにアタックされたら、きっとコナゴナだ。


 しかも、こいつ、明らかに俺に敵意を持ってるっぽい。

 ギラリと光る赤い両目が、俺を睨んでる。

 ひょっとして、このへんはこいつの縄張りだったりするのかな?

 ここで死んでる冒険者らしき二人。

 もしかしたらこいつら、このダンゴムシのせいでここから出られなかったのかも。


 もぞっ。


 やばい、ダンゴムシが動いた。

 装甲を変形させ、ふたたび円形――というかタイヤ型――になろうとする。


 逃げろ!


 俺は小部屋みたいな空間を飛び出した。

 直後。


 どごぉおおおおおん!


 小部屋とは反対の洞窟の壁に、ダンゴムシがその巨体をめり込ませた。

 ひぃぃ!

 半分くらいは埋まってる。

 あんなの食らったら、マジでひとたまりもないって!

 俺は洞窟を駆け出した。


 しかし、あのダンゴムシ、巨体のくせにけっこう動きは早い。

 逃げ切れるとは限らないぞ。

 どうする?


〈そ、そうだ――〉


 こんなときこそ鑑定スキル的なものを使うべきだろう。

 俺には鑑定スキルはないが、代わりにこの謎の本『冒険書』がある!


 というわけでさっそくパラパラパラ――。


 ……おかしいな、特になにも追加されてないぞ?

 もしかして、なんか命令とかしないとダメなのかな。


〈あいつを鑑定してくれ!〉


 シーン……。


 ぬぅおい!

 なんでだよ!

 俺自身のステータスを表示するときは勝手に表示されたのに。

 ガイド音声みたいなのは日本語だったし、呪文が必要とも思えない。

 ってことは、この本、べつに鑑定とかしてくれるわけじゃないのか?


 ええい、ちくしょう役立たずめっ!

 こうしてくれる!


 俺は本を腹の穴から身体のなかに放り込んでおく。

 ただでさえ手甲が片方しかなくて不便なのに、使えない本なんか持ってられるか!


 ちらっと、後ろを見る。

 どうやら、巨大ダンゴムシはちょっと引き離せたようだ。

 丸まらなければ、そこまで動きは速くないらしい。

 とはいえ、どのタイミングであの形になって迫ってくるかなんてわからない。

 逃げれるだけ逃げとかないと。


◆◇◆◇◆


〈ぎょわーーーーーーーー!〉


 俺はUターンして来た道を引き返していた。

 え?

 なんでそんなことしてるかって?


 ――ゴロゴロゴロゴロ!


 そう。

 正面から、べつのダンゴムシが転がってきたのだ。

 まあ、一匹だけしかいないなんて誰も言ってないもんな!


 しかし、このままいくと、どうなるかなんて誰の目にも明らかだ。


 見えてきた!

 最初に遭遇したダンゴムシが、のそのそと足を動かしてこっちに向かってきていた。


〈うげ〉


 俺は足を止める。

 目の前のダンゴムシも、身体を丸めて転がる大勢だ。

 このままではダンゴムシとダンゴムシに挟まれてぺしゃんこだ。

 冗談じゃない。


 しかし、ダンゴムシは無慈悲にその巨体を転がし始めた。

 後ろからも、轟音が近づいてくる。

 くそっ!


 そして、ダンゴムシとダンゴムシが激突!


 その直前――俺は思い切りジャンプした。


 他に逃げられる空間がなかったからだ。

 結果、俺は洞窟の天井近くまで飛び上がった。


 ただし――右脚を犠牲にして。


 思い切りかけた体重に耐えられなかったのだろう。

 太もも部分のパーツが真ん中あたりで壊れ、そこから下が取り残された。

 そこに、ダンゴムシ同士が突っ込んでくる。


 ――ギャギャギャギャギャギャ!


 と、二体が回転してぶつかり合う音が、金属加工の音みたいに響き渡る。

 火花まで飛び散っている。

 その真ん中で、哀れ、俺の右脚はめちゃくちゃに潰れ、変形していった。

 あれじゃ原型も残りそうにないな……。


 そんな光景を見ながら、俺は少し離れた地面に着地する。

 いや、着地なんて立派なもんじゃないな。

 足が片方なくなってるし。

 ゴテっと転んで、横たわった。


 くそっ、最大の危機は脱したけど、ピンチは続いてる。

 しかも、足が片方しかないんじゃ、走ることもできない。


 ――どうする!?


 ダンゴムシたちは、二匹とも、ゆっくりと身体を広げていく。

 まるで、俺にじわじわと恐怖を味わわせたいみたいに。

 くそ、やるならさっさとやっちまえよ!


 やけくそ気味の気分で、俺はダンゴムシたちを睨みつける。

 ダンゴムシたちは身体を広げきると――


 そのまま動かなくなった。


 え?

 あれ?


 しかも、二匹とも、足のほうを上に向けて、ひっくり返ってる。


 うそ?

 マジで?


 まさか――倒しちゃった?

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