41 く・わ・れ・たー!?

 おりゃー!


 俺はロロコの手を離れ、目の前で暴れてる巨大狼に飛びかかる。


 リビングアーマーだが、いまは兜だけ。

 とっても心細いが、仕方ない。


 ――グルルルロオオオオオオオオオン!


 お、なんだ?

 やるかこのやろう?


 ――ウォオオオォォォォォォォン!


 ひっ!


 ってビビってる場合じゃねえ。

 狼は暴れ続けている。

 そいつの足元では、人間たちが大勢逃げ回ってる。


「こ、この! なんで言うことを聞かないんだ!? 助けた恩を忘れおって!」


 あ、バカ領主。

 あんたはさっさと食われれば……?


 ま、いいや。

 とにかく、この狼の注意をこっちに引きつけなきゃ。


〈おらおらおらおら!〉


 ――ふよふよふよふよ。


 俺は大声をあげながら、狼の鼻先を飛び回る。


 けど、全然気づかねえな、こいつ。


 狼は5メートル以上の巨体だ。

 こいつにしてみりゃ、俺なんか、目の前でホコリが舞ってるようなもんか。


 くそ。

 なめやがって!


 蜂や蚊レベルにはうっとうしいってことを教えてやるぜ!


〈おりゃーーーーー!〉


 ――がしゃんがしゃんがしゃんがしゃん!


 実は、こんな俺でもまだ可動部分がある。

 目の少し下、鼻から口当たりをガードするパーツだ。

 多分、戦闘してないときは、息苦しくないように上に持ち上げるんだろう。

 正しい名前はわからんけど。

 面パーツとでも呼んでおこう。


 それを、口みたいに上下させながら、俺は巨大狼に飛びかかる。


 ――がしゃんがしゃんがしゃんがしゃん!


 がぶっ!


 ――ギャオオオオオオオオオオン!?


 へっへーん。

 鼻先に噛みついてやったぜ。


 金属の歯で噛まれたようなもんだ。

 さぞ痛かろう。


 ――グルロロロロロロロロ……?


 ふっふっふ。

 不思議そうな顔をしてるな。


 下をキョロキョロ見回している。

 人間が攻撃してきたとでも勘違いしてるのか。


 ところが残念、違うんだなぁ。


 ――がしゃんがしゃんがしゃんがしゃん!


 がぶっ!


 ――グオォオオオオォォォォン!?


 今度は耳だ!


 巨大狼は今度は上を向く。


 そうだなぁ。

 いまのは、下からじゃ無理な角度だもんなぁ。


 なかなか頭いいな、こいつ。


 よし。

 この隙に人間たちが逃げてくれれば……。


「おお、お前ら、なにしてる! 私を助けろぉ!」


 ん?

 バカ領主がなんか叫んでるな?


 見ると、ロロコが人犬族たちと合流していた。

 おお、感動の再会だな。


 ここからじゃよく見えんけど。

 会話もわからんけど。

 というか、それどころじゃないしな。


 ロロコが促して、人犬族たちを避難させようとしている。


 なのに、それを領主が邪魔してる。


 領主と数人の部下が、槍を差し向けて人犬族たちを押し戻そうとしてる。


「おおお、お前ら! なに領主の私より先に逃げようとしてんだぁ!」


 はぁ?


「お、お前ら、壁になって私を守れ! 食われろ! その間に私は逃げる!」


 はあああああ!?


 いや、なに言ってんのあんたは?


 いま狼暴れてるの、完全にあんたのせいだからね?

 そんで、さっさと逃げれば、全員助かるかもしれないんだっての。

 いま、あんたらが出口塞いでるから、みんな逃げ出せないでいるんだ。


 ――グルルルルルル……。


 くそっ。

 しかも領主のバカでかい声のせいで、狼の意識が人間たちに戻っちまった。

 こっちに注意を引きつけ直さなきゃ。


〈おらおら、こっち見ろこっち!〉


 今度は目玉に体当たりするぞ!


 ――グワォン!


 ん?

 なんか急に視界が真っ暗になったぞ?


 ――バクン!


 うぉ!?

 なんか周りに壁が!


 ――ゴックン!


 うわー!

 壁が動いて、下のほうに押し込まれるー!


 ……って。

 これってまさか。


 狼に、食われた!?

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