40 領主のバカ!

〈止まれロロコ! 戻って様子を見よう〉

「わかった」


 ロロコは兜の俺を抱えて、草むらの中に戻る。


 そ~……。


 見間違いじゃねえよな。

 そもそも、こんなでかいものを見間違えるはずねえか。


 そこにはでっかい狼がいた。

 車輪のついた檻に入ってる。

 体長は5メートル以上。

 正確なところはわからん。

 とにかく象くらいのデカさだ。


〈あれはなんだ?〉

「ブロッケン・ウルフ。5年くらい前に現れて、倒されたはず」

〈でも、生きてるな?〉

「領主さまが捕まえてたのかも」


 物好きだなぁ。

 餌代もバカにならんだろうに。


 狼のデカさに気を取られてたけど、他にも人がいっぱいいるな。


 檻の周りにいるのは、その領主の部下だろう。

 ロロコを追ってたやつらと同じ、鱗状鎧を着たやつがいっぱいいる。


 その近くにいる、偉そうなおっさんが領主かな?

 派手な服着てんなー。

 正直、センスが悪いぞ。


 横には、ニコニコ笑顔の若い男。

 商人っぽい雰囲気だな。

 具体的にどこが、と言われると困るけど。


 反対の隣には、眼帯を付けた渋目のおっさん。

 傭兵みたいな雰囲気だな。

 鱗状鎧とは違う装備だ。


 その眼帯のおっさんと同じ格好のやつも結構な数いる。


 合わせて100人くらいだろうか。


 で、その100人に追い込まれたって感じで人犬族たちがいた。


 そっちは50人くらいかな。

 武器も持ってないし、鎧も着てない。

 みんなロロコと同じような粗末な布の服。


 人犬族たちの背後は崖になってるみたいだった。

 どのくらいの高さかはわからないけど。

 そこに追いつめられてるってことは、落ちたら助からない高さなんだろうな。


「さあ、どうする犬ども!」


 お、偉そうなおっさんがなんか喋りはじめたぞ。


「いますぐわが領地に戻り、これまで以上に身を粉にして私に尽くすというのならば、今回のことは大目に見てやろう」


 ……。


「だが! そのつもりがないのならば仕方がない。他の領民への示しのためにも、制裁を加えねばならない。このガルガルくんの手でな!」


 …………。


 そうかー。

 あの狼はガルガルくんって名前なのかー。


 どうでもいいわそんなこと!


 なに言ってんだあの領主は。

 それってつまり、あの狼に人犬族を襲わせるってことだろ。

 完全にオーバーキルじゃねえか。


 そもそも初めに『犬ども』なんて言ってたしな。

 人間扱いする気なんてないんだろう。


〈くそ、気分悪いやろうだな……〉


「あ」

〈ん? どうしたロロコ〉


 ロロコの視線をたどる。


〈あ〉


 これは『あ』しか言いようがないわ。


 調子に乗ってしゃべりまくる領主の手が、ガツンと檻のかんぬきにぶっかった。

 で、そのかんぬきがそのまま外れた。


 ――ガシャーーーン!


 派手な音が響いて、檻の扉が開いた。


 のっそりと巨大狼が檻から出てくる。


「おや、ガルガルくん。狩りの時間が待ちきれなくなったのかな?」


 いやちげえよ!

 あんたがぶっけて開けちゃったんだよ!


「まあいい。じゃあさっさとこいつら、食っちまいなさい」


 おおお、とんでもねえことさらっと言ったな。


 ――グルルルルルル……。


 巨大狼はうなり声をあげて周りの人間を見回すと、


 ――ペイ。


 と前脚をふるって、領主の部下の一人を吹っ飛ばした。


「へ?」


 なにが起きたかわからないという顔の領主の前で、狼は暴れ出した。


 ――グロロロロロオオオオオオオン!


「ぎゃああ!」

「逃げろ!」

「だからヤバいって言ったんだ!」


 大騒ぎだ。


 当たり前だ!

 あんなモンスター、なんで手なずけられたと思ってたんだあのバカ領主は!


 領主もその部下も人犬族も誰も彼も。

 一緒くたになって逃げ回る。


 くそ、様子を窺ってる場合じゃねえな。


〈ロロコ。離してくれ〉

「? どうする」

〈俺が狼を惹きつける。ロロコはみんなを逃すんだ〉

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