42 どっこい生きてる腹のなか

 どうも、兜だけになったリビングアーマーです。

 今、狼の腹のなかにいます。


 ……そうだよ! 食われたんだよ!


 食道かな?

 胃かな?

 腸かな?


 どのパーツなのかはわからんなー。

 とにかく、なんらかの消化器官なのは間違いないと思う。


 なんか、したのほうにドロドロした液体があるからな。

 これで食物を溶かすんだろう。


 ま、俺はふよふよ浮いてられるんで大丈夫だけど。


 というか、この消化液はあまり溶かす能力がないんかね。

 結構ゴロゴロものが残ってるぞ。


 動物の骨とか。

 木とか。

 なんか、建物の材料だったっぽい石とかもある。


 こいつ、なに食ってんだよ……。


 まあいい。


 とにかくここから脱出しなきゃ。


 外では、まだロロコや人犬族が逃げ回ってるはずだ。

 他の人間たちも。

 バカ領主は……まあいいけど。


 で、どうやって脱出しようって話だよ。


 選択肢はまあ、二つだろうな。


 1:口(鼻や耳もあり)

 2:尻


 うーん……。


 できれば2は避けたい。

 いざとなればやむなしだけど。


 で、さっきからウロウロして出口を探してるんだけど。

 この消化器官、出口が一つしかないんだよな……。


 一旦入れて、溶けたらまた出すとか、そういうタイプなんだろうか。


 出てみたら、尻一直線でしたとか、できれば避けたいんだけどな……。

 まあ、見つからないし、仕方ないか。


 ――グオングオングオングオン!


 うぉ!?

 なんだよ!


 周りの壁が動いてる。


 消化活動をしてるってことか?

 それとも狼がうごきまわってるのか?


 ――バシャ!


 あぶねっ!


 消化液がかかるところだったぞ!


 まあ、見たところ、カエルの毒液みたいな強烈なやつではないっぽいけどさ。

 一応用心しておきたい。


 ……ん?


 あそこにある木の影。

 誰かいる……?


 いやいや。

 まさかな。


 狼のお腹のなかに人がいました、なんて。

 童話じゃあるまいし。


 ……え?


 なんか手振ってない?

 うそ……マジで!?


 まさかとは思うけど……。

 まあ、行くだけ行ってみるか……。

 助けを求めてるのかもしれないしな。


 ――ふよふよふよふよ。


〈ギャーーーーー!〉


 いや!

 いやいやいや!


 いいかげんこれくらいでビビんな俺!

 がっがっがっガイコツくらい前にも見ただろ!


 それは鎧を着たガイコツだった。

 それがさっきの揺れのせいで偶然、手を振ってるように見えたのだ。


 あーもー!

 あーもー!


 脅かさんでくださいよ!


 ……見たところ、けっこう古い。

 昔飲み込まれた犠牲者なんだろう。


 よく見ると、他にもちょくちょく鎧だの武器だのがあるな。


 みんな、この狼を倒そうとして、飲み込まれたのか。


 迷惑な魔物だな。

 っていうか、そんなやつ飼うなよあのバカ領主……。


 さてさて。


 ちょっと落ち着いて考えてみよう。


 ここにいくつか鎧がありますよ。

 これ、使えるんじゃね?


 俺も、さすがに兜だけでこの化け物とバトるのはきつい。

 でも、フル装備がありゃ、なんとかなるかもしれん。


 よし!


 待ってろよ、ロロコ!

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