9 ダンジョン奥地行きカマキリ特急(強制)
〈うぎゃあああああああ!〉
俺は超高速で移動しながら悲鳴をあげていた。
とといっても、自分で移動してるわけじゃない。
そりゃそうだよな。
いま俺の身体は胴パーツが破壊されて、上半身と下半身にわかれちゃってるんだから。
動きようがない。
じゃあなんで移動してるかっていうと、カマキリのせいだ。
俺の身体を真っ二つにした張本人の巨大カマキリ。
こいつが高速移動中なのだ。
俺の上半身と下半身を身体に引っ掛けた状態で、
こいつはたぶん、洞窟の天井に潜んでたんだと思う。
そんで、巨大ダンゴムシの死体に群がるクモさんたちを狙っていた。
そこに俺が現れたもんだから、獲物を横取りされると思って攻撃してきたのだ。
……誰も食わねえよ、クモなんか!
なんて主張しても、当然カマキリには通用しない。
カマキリは、さらに鎌を振り上げて、俺を攻撃しようとしてきた。
そのときだ。
地震が起こった。
いや、正確には地震じゃない、たぶん。
なぜかっていうと、地面は揺れてなかったからだ。
なんていうか、空気だけがブルブル震えてるみたいな、変な感覚。
いままでに体験したことのない現象だった。
ともかく、それのせいで、クモさんたちが一気に逃げ出した。
クモの子を散らすなんてことわざの実例を、俺は初めて見た。
といっても、逃げる方向は洞窟のさらに奥しかない。
クモさんたちは一目散にそっちへ向かって移動していった。
そして、巨大カマキリも、それを追いかけだしたのだ。
俺を身体に引っ掛けた状態で。
俺が引っかかってるのは、カマキリの身体にある、トゲみたいな出っ張り。
普通のカマキリにはこんなパーツはないかったと思うけど。
たぶん、俺の上を通り過ぎるときに、カマキリの足が俺を蹴ったのだろう。
で、蹴り上げられた俺がトゲに引っかかったというわけ。
しかも、上半身のほうは、ベルトみたいなパーツがトゲに絡まって外れない。
すごい偶然だ。
けど、全然嬉しくない。
もうちょっと役に立つ偶然が起こってくれてもいいんじゃないかな!
なんか俺、この身体になってから、いいことなしな気がするよ!?
まあ運がいいといえば、冒険書と、コインが入った布袋が落ちてないってことかな?
なんか、太ももパーツのなかにうまい具合に収まってるっぽい。
〈ぬおおおおおオオおおおお!〉
ちょ!
カマキリさん!
横揺れすんのやめて!
どうも、トゲに異物が引っかかってるのが気になってきたらしい。
走りながらブルンブルン身体を揺すり出した。
くぬお!
俺は両腕でガシッとトゲをつかむ。
見ると、下半身は下半身で、両足でトゲを挟んでいた。
あれ?
分離してても、動かせるは動かせるんだな。
たしかに、意識してみると、両方にちゃんと自分の身体だという感覚がある。
どちらが本体というわけではなく。
強いて言うならどっちも本体。
人間の身体だったときにはありえない奇妙な感覚だ。
よし!
負けるな下半身!
頑張れ上半身!
片方だけ振り落とされたら、本当に泣き別れだぞ!
とりあえず、トゲに絡まってるベルトみたいなパーツをなんとかしたい。
これが外れれば、両方同時に飛び降りればいいからな。
くそ!
この!
かたいなこいつ!
たぶんこれは、鎧の各部分同士を接続するのに使うパーツなんだろう。
だから、すごく丈夫にできている。
この不安定な状況では、引きちぎれそうにもない。
かといって、この絡まった状態を解くのも無理そうだ。
なにしろ俺の手はミトンみたいな形の手甲だからな。
自分の意思でベルトを動かして解けないかと思ったけど、それは無理みたいだ。
ベルトは人間で言うところの不随意筋に当たるのかもしれない。
――ブブブブブブブ。
ん? なんの音だ?
うわ!
急に身体が浮き上がる感触。
こいつ、飛び始めた!
背中の羽を震わせて、洞窟のなかを低空飛行。
速度はさらに上がる。
ちょ!
壁に俺の身体擦れてるから!
もっと真ん中らへん飛んで!
しかし、カマキリにしてみりゃ、俺という異物がどうなろうと知ったこっちゃない。
平気でガンガン壁にぶつけてくる。
ひょっとしたら、落とそうとしてわざとやってるのかもしれない。
おい、やめろ!
――ガクン!
うわー!
今度はなんだよ!
カマキリはとつぜん急停止した。
その勢いで、俺の身体は前方へ放り出された。
胴パーツだけは、ベルトで引っかかったまま取り残される。
あ!
壁にぶつかって壊れちゃった!
吹っ飛ぶ俺の下では、カマキリがブンブンと鎌を振ってる。
どうやらクモさんたちに追いついて、狩りを始めることにしたらしい。
クモさんはキィキィ鳴き声をあげながら逃げ回るが、何匹かが餌食になった。
……クモって鳴くんだっけ?
とにかく俺の上半身と下半身は、そんな戦いの上を飛んでいく。
そして、地面に落ちたと思ったら、
〈え? ――うわあああああああ!〉
――ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!
そこは急な坂道になっていた。
この!
俺は、手や足を踏ん張って、岩の出っ張りに捕まろうとする。
が、無理だった。
俺の身体はゴロゴロと坂道を転がり、ダンジョンの奥地へと落ちていった。
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