第3章 絶海の孤島ダンジョン編
83 この世界にはゴブリンがいる!(嬉しくない)
〈うわああああああああああああああ!〉
悲鳴を上げながら落下していくリビングアーマーの俺。
右腕には人犬族のロロコ。
左腕にはドワーフ嬢のアルメル。
それぞれの腕にパーティの仲間を抱えながら、俺はダンジョンを落下していく。
っていうか、まだダンジョンに突入してすらいなかったけどね。
ヘルメスとかいう伝説の魔法使いが建てたダンジョン入り口の館。
そこに足を踏み入れた途端、床が崩れて俺たちは落下。
そのままコードレスバンジー状態ですよ!
〈ふぐっ、ぬ、おおおおお!〉
俺は身体に力を入れる。
リビングアーマーとしての俺は多少の浮遊能力を有している。
これで落下速度を少しは減少させられる。
それにしてもどこまで落ちるんだ。
この穴、底がまったく見えないぞ。
「絶海の孤島ダンジョンは広大な地下空間を有してますからね」
アルメルが存外落ち着いた声で言ってくる。
そう、ここは絶海の孤島ダンジョン。
といっても、場所的にはまだ大陸の東端だ。
「絶海の孤島ダンジョンはリリアンシア海に浮かぶ孤島ですが、その中央には大樹ハーレンファラスがそびえ立っています」
またややこしい名前のものが現れたな……。
「このハーレンファラスは雲を突くような巨木で、その根は島全域を覆い、海底を伝ってこの大陸まで伸びています。その根の侵食が生み出した洞窟が、絶海の孤島ダンジョンの一部を形成しているんです」
なるほど。
つまり絶海の孤島ダンジョンってのはその島だけじゃないんだな。
根が伸びている海底と、大陸の一部も含めてダンジョンってわけだ。
ダンジョンは魔力に満ちていて、モンスターがいる危険な地域の総称だ。
〈つまり、ここもすでに危険ってわけか〉
「そうなります」
「あ」
なんだ、最後のロロコの「あ」ってのは。
〈どうした、ロロコ?〉
「プテラマウスがいる」
そいつは確か、大洞窟ダンジョンで俺たちを襲ってきた巨大コウモリだよな。
「きた」
〈うおおおおおおお!〉
あっぶね!
危うくくちばしに右脚を持っていかれるところだった。
そうか。この辺はプテラマウスの巣なのか。
ん?
前にプテラマウスの巣を落下したときは、下は天然の針の山だったよな?
プテラマウスは落下してそこに串刺しになった獲物を食ってるのだ。
〈この下もひょっとして……〉
「それは大丈夫だと思う」
〈ん? どうしてだ?〉
「ここ、縄張りだけど、巣じゃない。べつのモンスターもいる」
〈べつのモンスター?〉
「フライング・アラクニド」
また懐かしい名前が出てきたな。
えーと、そいつは確か、空飛ぶ蜘蛛――おおおおおおおお!
思い出すより早く姿を現してくれてありがとよ!
ちくしょうめ!
今度は左脚が持ってかれるところだったわ!
「いいいいい、急いで降りましょうリビタンさん!」
アルメルが叫んでるけど無茶言うな。
あまり急ぐと地面に激突するんだぞ。
しかしコウモリと蜘蛛は執拗に俺たちを狙ってくる。
コウモリ!
蜘蛛!
コウモリ!
コウモリ!
蜘蛛!
コウモリ!
蜘蛛!
蜘蛛!
ゴブリン!
…………ん?
なんか今変なの混ざってなかった?
コウモリ!
蜘蛛!
蜘蛛!
ゴブリン!
ざしゅ! と緑色のちっこい人影が、手にしたナイフで蜘蛛を引き裂いた。
コウモリも銀閃の餌食になる。
間違いない。
あれはゴブリンだ。
獲物を狩ってるのか?
俺たちを助けてくれてるのか?
なんにしろラッキー――
「ま、マズいですよ」
とアルメルが震える声で言ってくる。
「絶海の孤島ダンジョンにいるゴブリンは排他性が強いので、よそ者は攻撃してくるんです!」
えーと、それはつまり。
俺たちも狙われるってこと?
「ギー! ギー!」
「ナンダオマエラ!」
「コロスゾ!」
うわー!
いつの間にか、周りの壁に、大量のゴブリンが取り付いて俺たちを取り囲んでいる。
そいつらがナイフを構えて一斉に飛びかかってきた。
全然ラッキーじゃねえ!
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