132 エドとドグラ

 どうも、リビングアーマーの俺です。


 ラファの魔力過活性症を治すため、フィオンティアーナにやってきた俺たち。

 どうやらそのためには、高純度の魔鉱石が必要らしい。

 郊外にあるチェインハルト商会の実験施設にはその高純度魔鉱石があるかもしれない。


 ということで、そこに到着した俺たち。


 そこへ突然忍者が飛び出した!


 いや、なに言ってんだって思うかもしれないけど本当なんだ。


 俺たちを入れるため開けられた施設の門。

 そこから黒い影が飛び出し走り去っていった。


 その漆黒の装束はどう見ても、俺が前にいた現代日本でいうところの忍者だった。

 いや、現代日本に忍者がいるのかという話だけど。


 いるかいないかは置いといて。

 時代劇やなんかに登場したり。

 時代村みたいな施設にいたりする。

 あの忍者そっくりだったのだ。


「待ちなさい!」


 続いて、見覚えのあるメガネの美人さんが門から出てきた。


「あ、クーネアさん」


 ロロコが彼女の名を呼ぶ。

 彼女はチェインハルト商会の代表であるエドの秘書だ。


「皆様……どうしてこちらに……いえ、すみません。今はそれどころではなく……」


 と、クーネアさんはいつになく焦った様子で周囲を見回す。


〈あの、黒い服装のやつなら、あっちに逃げていきましたよ〉


「くっ……忍の力を侮っていました……追手を手配してくださいっ」


 クーネアさんが門番の兵士に指示を飛ばす。

 おー、この世界でも忍って言うんだ。


 クーネアさんは俺たちに向き直ると、丁寧に頭を下げた。


「――お見苦しいところをお見せして失礼いたしました。改めまして、中へどうぞ。御用はそちらでお伺いいたします」


 俺たちはクーネアさんに連れられて実験施設の中へ入った。


◆◇◆◇◆


 入り口近くにある客間っぽい部屋に俺たちは通された。

 そこではエドが待っていた。


「やあ、リビタンさんにロロコさん、アルメルさんにクララ殿下。それにラフィオン閣下まで。不思議な組み合わせですね」


 にこやかに挨拶してくるエド。


 クララ……?

 ああ、クラクラのことか。

 彼女はエルフの王女なんで『殿下』呼びなのか。

 どうも忘れそうになるな。


 そういやエドには訊きたいことがあったんだった。

 絶海の孤島ダンジョンで出会ったリザルドさんたち冒険者部隊のことだ。


 あのとき、ドラゴンが現れて東の方、つまり〈ドラゴンの巣〉に向かっていた。

 エドはそれを知っていたのに、リザルドさんたちに伝えていなかった。


 なんでそんなことをしたのか、問い質したい。


 しかし、俺がそれを口にするより先に、


「貴様、何者じゃ……?」


 ドグラがエドに向かって呻くように言った。


 そういや、そのドラゴンってこのドグラなんだよな。

 なんて思ってる間に、空気がいきなり緊迫する。


「おや、このお嬢さんは?」


「とぼけるな! 貴様、なんだその……その、禍々しい力……っ!」


「…………」


 な、なんだなんだ?

 なにが起こっている?


「なんの話ですか?」


 エドは不思議そうに首を傾げ、手袋をはめた両手を身体の前で組む。


 対するドグラは今にもドラゴンに変身してエドに飛びかかりそうな勢いだ。


〈お、おい、落ち着いてくれドグラ〉


「これが落ち着いていられるか! 貴様には分からんのか! こやつは今すぐ殺しておくべき――」


「やめないかドグラ!」


 彼女の言葉を遮ったのはクラクラだった。


「私たちは、ここに頼み事をしにきているのだ。ラファの命がかかっている。それを忘れないでくれ」


「その通りじゃな!」


 変わり身はっや!

 ドグラはあっさりと殺気を解くと、クラクラに抱きついた。


「さっすがクラクラじゃ。仲間想いじゃ。最高じゃ」

「やめ、ちょ、そんなにくっつくな……!」


 イチャイチャし始めた……。


 ドグラの言っていたことは気になるけど、今は置いておこう。

 エドが何者であれ、ラファを助けるために必要なものを持っているのは事実だ。


〈悪かった〉


「いえ、構いませんよ。それより用事を伺いましょう」


 エドは気にした様子もなく、そう告げた。


 うーん。

 置いてはおくけど……怪しさはたしかに大爆発なんだよなぁ……。

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