133 チェインハルト商会との取引

 どうも、リビングアーマーの俺です。

 チェインハルト商会の実験施設までやってきて、エドと会話中である。


 内容は、ゴブリン娘のラファの魔力過活性症について。

 その原因は、どうやら左腕の義手らしい。

 彼女の義手はゴーレムのパーツだ。

 その材料であるオリハルコンは高い魔導率を持つ物質だ。

 そのオリハルコンがラファの体内の魔力を過剰に循環させている。

 そのせいで今ラファは苦しんでいるのだ。


 助けるには、オリハルコンの義手を手術で取り外さなければいけない。

 しかし、そのためには高純度の魔鉱石が必要になる。


〈――というわけで、もし高純度の魔鉱石があれば貸してほしいんだ〉


「なるほど」


 俺が話を終えると、エドは小さく頷いた。

 しかし、腕を組んですぐには答えない。


〈なんだ? なにか問題があるのか?〉


「はい。そうですね、二つほど」


 悩ましげな表情をしてエドは言う。


「たしかにここには高純度の魔鉱石があります。その手術に必要な量は充分にあるでしょう。しかし、それらはすべて、実験に使用中でして、実験を中止させて安全に取り外すには時間がかかります」


〈どれくらいかかるんだ?〉


「約十日くらいは」


 それならなんとかなりそうだ。

 ラファの命はあと二週間とお医者さんは言っていた。


 俺がそれを告げると、


「そうですか」


 エドは頷いた。


〈もう一つの問題ってのはなんだ?〉


「その実験にはすでに大量の資金を投じているということです」


〈金か……〉


「はい。一度実験を中止すれば、準備段階からやり直しになります。九割の資金が無駄になってしまいます」


「でも、ラファが死ぬんだよ」


 ロロコがストレートな反論をする。

 しかしエドは穏やかに答える。


「わかっていますよ。しかしこの実験を中止するなら、実験のために雇った者を一時的に解雇しなければなりません。その間給料がもらえず、飢える者もいるでしょう。実験再開のための資金を手に入れるために、冒険者用アイテムの生産を中止する必要もあります。多くの冒険者が道具不足でダンジョン攻略を行えなくなります」


「む……」


 エドが言っているのは冷たいようだが真っ当な商人の理屈だった。

 病気で死ぬ人を助けるために資金を投じれば、経済的に破綻して死ぬ者が大勢出るかもしれない。


「その資金は私が出そう」


 ラフィオンさん!?


「ほう。あなたが?」


「ああ。我がメディシア家はドグラ殿のおかげでここまで発展することができた。今こそその恩を返すべきとき」


 すごい!

 さすがフィオンティアーナの領主様!


「して、その資金とはいかほどになる?」


「そうですね……」


 エドが髪とペンを取り出して、そこに数字(らしきもの)を書き連ねる。

 俺には全然読めないが……。

 それを見ていたラフィオンさんの顔がだんだん青くなっていく。


〈ラフィオンさん?〉


「すまぬ……まさかそれほど高額とは……メディシア家の財産を全て投じても、三分の一ほどしかまかなえぬ……」


 マジかよ!

 ちょっとエドさんよぉ!

 こっちの足元見て吹っかけてるんじゃないだろうなぁ!


 なんてちょっと思ったけど。

 エドは本当に済まさなそうな顔をしている。


「わかりました。ではこうしましょう」


 俺たちが困っていると、エドが言ってきた。


「先ほどの逃亡者、皆さん目撃しましたよね」


 ああ。

 さっき門から飛び出していった忍者な。


「あれはおそらくヴォルフォニア帝国の密偵です。あの忍を捕らえて帝国と交渉すれば、この資金を引き出すことができるでしょう」


「密偵一人にそんな大金を出すものだろうか?」


 ラフィオンさんの疑問にエドは平然と答える。


「我が商会はなにかにつけて帝国に協力しているのに、帝国がその信頼を裏切るようなことをしたという事実が重要なのです。それに目を瞑る代わりに……というわけですね。もし要求に応じないなら、今後、帝国領内での冒険者アイテムの販売は一切行わないことにする、と告げます。信用できない相手とは商売できませんからね」


 うっわー。

 怖いわー。

 商人怖いわー。


 しかし道筋は見えてきたぞ。


 エドは俺たちに向かって笑みを浮かべて告げる。


「というわけで、あの逃亡者の忍の捜索をしていただきましょう」

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