64 バラバラⅡ【両腕とエルフの姫騎士】

 ――どがごおおおおおおおおおおおおおん!


 ギルドから西へ移動していた両腕とクラクラの元にも、その轟音は聞こえてきた。


「な、なんだ?」

〈――キャノン・トータスの群れが街を襲ってるらしい〉


 俺は、ロロコと一緒にいる兜が聞いた住人の会話を伝える。


「……ライレンシア湖のあいつらか」

〈そうみたいだな〉

「よし」


 クラクラは躊躇なく向きを変えた。


〈待てよ! モンスター退治に行くつもりか?〉

「当然であろう」

〈いや、でも、クラクラ怪我してるだろ〉


 彼女は瓦礫に挟まれたせいで、足をひねっているのだ。

 今も、両腕だけの俺が、支えながら歩いている状態である。


「大した怪我ではない」

〈けど戦闘は無理だろう?〉

「案ずるな。もともと私は魔法による援護が主。動けなくても役には立つ」


 いや、役に立つかどうかより、怪我の心配をしてるんだけどな……。


「私は騎士だ。騎士が民の安全を守らずしてどうする」

〈…………〉


 正直その感覚は、元日本の高校生・現リビングアーマーの俺にはよくわからん。

 けど、クラクラの目は真剣だった。


 俺が行かないっつっても、一人で行っちゃいそうだよ……。


〈……わかった。ただし無茶はしないでくれよ〉

「かたじけない」


 ふと思ったけど、クラクラって騎士っていうか武士みたいだよね。


「しかし、リビタン殿は避難されて、ロロコ殿と合流した方が良いのではないか」

〈なんだ。ここまできて追い返すのか?〉

「いや、そうではなく……」


 と、クラクラが見た方向を見て、彼女が言いたいことがわかった。


 南の門へ、大勢の冒険者たちが向かっていた。

 腕だけの俺がふよふよ浮いていったら、さすがに目立つだろう。


〈けど、クラクラも、支えがあった方が歩きやすいだろう〉

「む……」


 図星みたいだな。


 ああ、じゃあ、こうすりゃいいんじゃん。


◆◇◆◇◆


 ――というわけで。


 クラクラは、俺を両腕に装着した状態で、南門までやってきた。


 こうしていれば、俺はただの鎧のパーツだ。

 浮力でクラクラの身体をある程度支えることもできる。


 まあ、なんで腕だけ鎧をつけてるのか変に思われるかもしれないけど。

 緊急事態だ。

 そんなことわざわざ聞いてくる奴もいないだろ。


 南門から街の外に出ると、冒険者たちが大勢いて駆け回っていた。

 視線を湖のある南に向けると、土けむりの中、こちらに向かってくる亀たちが見えた。


 クラクラは、近くにいた冒険者に呼びかける。


「どういう状況だ?」

「前衛職が撃退に当たってるが、なかなかうまくいかないな」


 冒険者は舌打ちまじりに言う。


「あの亀ども、防御力がアホみてえにありやがるからな」


 そうだった。

 たしか、腹側が弱点だからひっくり返さなきゃいけないんだよな。


「パニックになってて、大砲をほとんど使ってこないのが幸いだが、なにしろ数が多い」


 そう、あの亀たち、やたらに群れてるんだよな。

 そのせいで、俺たちも逃走するしかなかった。


「後衛の風魔法の使い手でももっといれば助かるんだが」

「それならばちょうど良い。私がその役を請け負おう」

「おお、ホントか?」

「と言っても、一体ずつしかできないが」

「それでも助かるぜ。あっちの方が苦戦してる。頼むぜ」


 クラクラは、冒険者に言われ、右手の方に移動する。


 たしかに、こちらの方はもう亀たちが間近まで迫っていた。


「よしっ」

〈やるのか?〉

「ああ――」


 クラクラは剣を抜いた。

 それを掲げ、彼女は呪文を詠唱する。

 この剣が、魔法の杖かわりなのかもしれないな。


「風よ、自然を模倣せよ。竜を擬して渦巻き逆巻け。其は我が願いなり――」



「トルネードレイド!」



 その瞬間。

 手近の亀の近くで風が吹き上がった。


 風は渦を巻き、小さな竜巻となって亀を跳ね上げ、ひっくり返した。


 勢いが弱いので、竜巻はすぐに消える。

 だが、亀の腹をむき出しにできれば、その役目は十分だ。


「助かる!」


 その亀と対峙していた冒険者が、剣で亀に斬りかかる。


 ――ブモオオオオオオオオオオ!


 亀は声をあげて倒された。


「よし、次だ」


 クラクラは、剣を振り、別の亀に向き直る。



「トルネードレイド!」



 今度は詠唱なしで、魔法の名前だけを口にする。

 また竜巻が発生し、亀がひっくり返る。


◆◇◆◇◆


 それを繰り返し、50体くらいの亀を倒してから、クラクラは手を止めた。


「はぁはぁ……魔力が尽きた。少し休む」

〈お疲れ〉


 息が上がっているクラクラに、俺はそう告げる。


 だいぶ押し返せたようだった。


 亀はまだまだ街に向かってきているが、駆けつけた人間の数も増えていた。

 冒険者の他にも、兵士とか街の有志もいるっぽいな。


 おかげで、亀の空気砲が城壁に当たる前に倒せる状態になっていた。


〈なんとかなりそうだな〉

「ああ。もう少ししたらまた復帰しよう」


 そう答えるクラクラに俺は苦笑する。

 って表情変わらないけどな。

 そもそも今腕しかないしな。


 と、その時。


 別パーツ――左脚が、エド・チェインハルトからとんでもない言葉を聞いた。


 俺は思わず、全パーツで声を出してしまう。


〈――ドラゴンが蘇るってのか?〉

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