63 バラバラⅠ【兜と犬耳っ娘】
〈どういうことだよっ!〉
俺の大声にロロコが目を丸くした。
いっけね。
びっくりして、思わず頭の方でも叫んじまった。
他のパーツでは声が出なかったのが幸いだ。
「どうしたの?」
〈いや、悪い。別パーツがチェインハルト商会の会長ってやつと会話しててな〉
俺はロロコの問いに答える。
〈このままだと、この街が滅びるって言ってる〉
「どういうこと」
〈いま相手から説明を聞いてるから、まとまってから話す〉
俺はいま、ロロコと会話しながら、別の場所で別のやつとも話してる。
左脚がエド・チェインハルト。
右脚がラッカムのおっさん。
胴体がドワーフの受付嬢。
両腕がエルフのクラクラ。
頭が混乱しそうな状態だが、意外と平気だ。
前に、バラバラにしたうろこ状鎧を操ったりしたのが、訓練になってたのかもな。
〈とりあえず、みんなと合流しよう。ラッカムさんももう街にいるぞ〉
「わかった」
ロロコはいつも通り冷静な返事。
けど、耳がパタパタしてるので上機嫌になったのがわかる。
よっぽど慕ってんだな、ラッカムさんのこと。
〈待ってくれ。みんなと話を合わせるから〉
俺は他の場所の様子を探る。
〈――街の西側が被害が小さくて安全っぽい。そっちに向かおう〉
「わかった」
俺は兜だけでふわふわ浮かび、西へ向かう。
胴体とドワーフの受付嬢がいる方向だ。
感覚的に、自分の各パーツがどっちにあるかがわかる。
前はわからなかった気がするんだけどな。
だんだん、感覚が鋭敏になってってるっぽいな。
「待って」
〈どうした?〉
「その状態で人に見られたら、騒ぎになるよ」
それもそうだな。
今までずっと人間がいないダンジョンだったもんだから感覚がずれてるな。
俺はリビングアーマー。モンスターの一種なんだ。
というわけで。
ロロコが俺を抱えて移動することに。
〈そこの角を右……で、橋を渡って……〉
俺の小声の指示に合わせて、歩を進めていくロロコ。
街の被害はそこまでひどくないようだ。
それにしちゃ、みんな結構焦った様子で避難してるな?
「魔響震の後は、魔物が活性化する」
〈なるほど〉
地震というより、そっちのために避難してるのか。
〈でも、それじゃこっちに避難するのはいいのかな?〉
西側は被害が少なくて安全――ってのは、建物とかが崩れてないからって判断だ。
モンスターが攻めてくるかどうかなんて考えてない。
でも、みんなも俺らと同じ方向に避難してるっぽいな。
「大丈夫」
ロロコが言う。
「あっちの方が建物が立派。多分、街の中心」
そうか。
言われてみれば、西に行くに従って、立派な建物が増えてってる。
多分、都市機能の多くがそちらにあるってことだろう。
とすれば、自警団みたいな組織もそこを中心に守る。
そこに避難すれば安全――ってわけだ。
〈よし、じゃあ行き先は間違ってないわけだ――〉
――どがごおおおおおおおおおおおおおん!
と、どこかで聞いたことのある音が、遠くから聞こえた。
方向からして南方向――ライレンシア湖がある方だな。
俺たちがダンジョンを脱出して、やってきた方角だ。
ってことは、これってまさか。
周りにいた住人たちも、焦りの声で会話を交わす。
「おい、この音、まさか……」
「嘘だろ? 普段はあの亀たち、テリトリーから出てこないだろ」
「あの群れに襲われたら、ひとたまりもねえぞ」
――どがごおおおおおおおおおおおおおん!
――どがごおおおおおおおおおおおおおん!
――どがごおおおおおおおおおおおおおん!
住人たちの会話を遮って、轟音は響き渡る。
まちがいないな、こりゃ。
湖の岸辺で俺たちが遭遇したあの亀のモンスターだ。
キャノントータスの群れが街を襲ってる!
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