66 バラバラⅣ【右脚と自警団長】

〈――ドラゴンが蘇るってのか?〉


 エドから聞いた話にびっくりして、思わず全パーツでそう言ってしまった。


「ん? なんだ、ドラゴンって」


 バリガンガルドの街を駆けるラッカムが聞いてくる。

 ちなみに、俺は彼に持たれてる状態だ。

 浮いてるところを街の住人に見られたら、びっくりされちゃうからね。


〈いや……なんか、ライレンシア湖のドラゴンが復活するって〉

「誰がそんなことを言っている?」

〈えっと〉


 この人、名前なんだっけ?


〈そうそう。エド・チェインハルトって人が〉

「エド!? あいつ、この街にいるのか?」

〈え、うん。そうみたいだけど……〉


 あれ、ひょっとしてこれ、言ったらダメだったのかな?


「なぜあいつがここに? なにを企んでいる……いや、今はそれどころじゃないか」


 ラッカムはすぐにそう判断した。


「ドラゴンが復活するっていうのは本当なんだな?」

〈たぶん……魔響震も地震も、亀の暴走もそのせいだって〉

「くそっ。それじゃ、こっちに向かってる場合じゃねえな」

〈え、なんで?〉


 いま湖の方には、亀を退治するため大勢の冒険者が集まっている。

 そのメンバーでドラゴンを倒すんじゃないの?


「バカ言うな。倒せるわけがないだろう」

〈そうなの?〉

「ライレンシア湖のドラゴンといえば、七つの街を滅ぼした伝説の竜だ」


 エドもそう言ってるな。


「倒すなら、レベル100超えの冒険者を100人連れてこなけりゃ無理だろうな」


 ちなみにいまの俺のレベルは24。

 まあ、亀を倒した際の魔力でもうちょっと上がってるかもしれないけど。

 100には程遠い。


〈ちなみに、ラッカムさんのレベルは?〉

「俺は冒険者じゃない。まあ、大体60相当らしいが」


 けっこうすごいのだろうが、やはり100には及ばない。


 クラクラと一緒にいる腕パーツで周りの冒険者を見回すけど……。

 そこまで強そうなやつはいないなぁ。

 みんな亀相手にけっこう大変そうだ。

 ドラゴンと対峙するのは無茶ってもんだろう。


「よし、逃げるぞ」


 ラッカムはそう言った。

 そして、周りの人に向かって声をあげる。


「みんな、街の外に出ろ! 遠くに離れるんだ! もっと大きい地震が来るらしい!」


 なるほど……。

 ドラゴンが復活するなんて言ったら、大パニックになる。

 それよりは、地震がまた来るっていう方が、まだみんな落ち着いて避難するだろう。

 地震なら、建物が崩れるかもしれないから街から離れるってのも、理屈に合ってる。


 住民たちは、ラッカムの言葉に従って、門の方へ向かっていく。


 ラッカムの服装を見て、信用してるっぽい。

 自警団の制服なんだろうけど。

 現代日本でいうおまわりさんみたいな扱いなのかね。


 ってあれ?

 ラッカムはみんなとは違う方向に向かいだした。


〈どこに行くんだ?〉

「城だよ。この街の領主に会って、事情を説明した方がいいだろ」

〈なるほど〉


◆◇◆◇◆


 城の周りには人だかりができていた。


〈なんだ?〉

「避難しに来たのに入れないみたいだな」


 城の周りには堀があって、門のところまで橋を渡らなきゃいけないみたいだ。

 で、その橋が跳ね上げられちゃってるので、誰も堀を越えられない。


「城には空き地があるから、住民の避難を受け入れるもんなんだが……」

〈この騒ぎに気付いてないってことは……〉


 ないよなぁ……。

 こんだけ揺れて、住民みんな大騒ぎしてるんだし。


「よし、ちょっと様子を見てみるか」

〈へ?〉

「リビタン、あんた空飛べるんだろ? 裏から侵入だ」


 マジかよ。

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