17 ダンジョンごはん

『モンスターの情報が追加されました』


 お、冒険書がなんか言ってる。

 ロロコが倒した大グモの情報が追加されたかな?

 確認確認――といきたいけど、いまのでモンスターが群がってきたりしないだろうか。


「どうしたの?」

〈いや……いまの魔法で、他のモンスターが寄ってこないかなと思って〉

「大丈夫。たいていのモンスターは人間の魔法を嫌う」

〈へー〉


 そういうもんか。

 獣は火を怖がる、的なやつかな。

 それなら安心か。


〈じゃあ、ごめん。ちょっと移動待ってくれる?〉

「ん」


 ふっ、と上半身を浮かせて、手でベルトを外し、冒険書を取り出す。

 霊体操作も手馴れてきたもんだ。


「…………(じーっ)」

〈ってなにしてんの、ロロコ〉

「リビングアーマーの中身、興味ある」

〈ちょ、なんか恥ずかしいんだけど〉

「中は空っぽ。ふしぎ」

〈くっ……はい! おわりおわり!〉


 俺は、鎧のなかをのぞいてくるロロコから逃げる。

 意外と積極的だな、この犬耳っ娘は。


 さて。

 冒険書の、大グモの情報を確認しよう。


『ケイヴ・アラクニド

 平均HP:443

 平均MP:332

 平均物理攻撃力:328

 平均物理防御力:276

 平均魔法攻撃力:35

 平均魔法抵抗力:26

 解説:洞窟に生息するアラクニド種。天井を移動し、糸で地面に降下、音もなく獲物に近寄り捕食する。』


 なるほど……。

 接近に気づかないわけだ。

 これからはもっと注意しておかないとな。


「…………本の形の冒険書」

〈のわっ!〉


 横からロロコがめっちゃのぞきこんできた。

 この子もクモに負けず気配がないなぁ。


〈って、なに食べてるの?〉


 ロロコは、なんか串見たいのを持ってもぐもぐしてる。

 その串、カニの爪みたいですね。

 ……って、え、まさか。


「ん。あれ」

〈やっぱりかぁああああ!〉


 ロロコが指差したのは、先ほど彼女が魔法で黒焦げにした大グモだ。


〈えっと、え、あれって、食べられるもんなの?〉

「焦げてるのは表面だけだから、平気」

〈いやそういう意味じゃなくてね!?〉


 えー……。

 だってクモだよ?

 虫だよ?

 わさわさーだよ?

 たしかに、タラバガニなんかは、カニよりクモに近いなんて聞いたことあるけど。

 んー……。


 と思ってる間に、ロロコはクモのところへ行く。

 なにをするのかと思ったら。


 パキン。


 と焦げた表面を殴って割った。

 ポケットからナイフを取り出すと、その中身をくりぬいて持ってきた。


「身は分厚いけど、表面近くは火が通ってる。おいしい」

〈え? あ……〉


 どうやら俺のために持ってきてくれたらしい。


〈ありがとう……けど、俺、身体が鎧だから〉

「そうか。それは残念」


 ロロコはクモ肉を自分で食べる。

 すげえ。

 なんてワイルドなんだ。

 ダンゴムシだの子グモだのでわーきゃー言ってた自分が恥ずかしくなるぜ。


 うん。

 でも、ま。

 正直、食べないで済んでよかった!


〈で? なんだ。冒険書に興味があるのか?〉

「ん。本型の冒険書は珍しい。今はみんな腕環型」


 やっぱそうなのか。

 ロロコを追ってたらしい男が持ってたのも、そうだったもんな。


〈けっきょくこれは、どういうものなんだ? 冒険者が使うアイテムなのか?〉

「? 使ってるのに、知らないの?」

〈ま、まあ、いろいろ事情があってな〉


 異世界で交通事故で死亡したら、この世界で鎧に転生しました――

 なんて説明を簡単に受け入れてはもらえんだろうな。


 ロロコはとりあえず流してくれることにしたらしい。


「冒険書は、チェインハルト商会が作っているアイテム」

〈チェインハルト商会?〉

「ここにも書いてる」


 ロロコは、冒険書の表紙を指差した。

 冒険書は、中身は俺に合わせて日本語だが、表紙の文字だけは変わらない。

 ロロコは、指でなぞってそれを読んでくれた。


「冒険者の……ための……手引書……チェイン、ハルト……商会」

〈おお、なるほど〉

「本型は20年くらい前まで、よく使われてた」


 ってことは、この冒険書の持ち主だった白骨死体はかなり古いものだったんだな。

 倒したあとでないとモンスター情報が追加されないのも、旧バージョンだからか……。

 でもま、いくら古くても、助かってるのは事実か。

 チェインハルト商会には感謝だぜ。


〈――そうだ。ロロコ、魔法を使えるってことは、MPとかにも詳しいのか?〉

「? どういうこと」

〈俺、魔力のこととか、さっぱりわからないんだよ。教えてくれないか?〉


 けっきょくここまでなんとなくで過ごしてきたけどさ。

 せっかくだからいろいろ聞いておきたい。


「わかった」


 ロロコは、そう言ってカクンと頷いた。

 手には、いつの間にかまた新しいクモ肉を持って。

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