18 ロロコちゃんの魔法講座

「まず、大前提。この世界には、魔力が満ちている」


 犬耳っ娘ロロコちゃんの魔法講座、はじまりはじまり~。

 生徒はリビングアーマーの俺。以上!


 歳下の子供に教えるつもりでお願いします、と言ったらこう言われた。


 あ、ちなみに歩きながら会話してます。

 向かってるのは、ロロコが知ってるダンジョンの出口。

 そこで人犬族のみんなと合流する予定だそうだ。


〈魔力が? 空気みたいに存在してるってこと?〉


 特になにも感じないけどなぁ。


「空気だって、風が吹かなかったらあるって意識しない。それと同じ」

〈なるほど〉

「魔力の風はないけど、ときどき揺れる。魔響震っていう」

〈それって、空間が地震みたいに揺れるみたいなやつ?〉

「そう」


 それなら憶えがあるぞ。

 俺が大カマキリにひっかかって、ダンジョンの奥地までくるきっかけになったあれだ。

 あれは、空気じゃなくて魔力が揺れてたのか。


「動物も人間も、身体に魔力を持ってる。量はそれぞれ違うけど、魔力が多い親からは多い子供が生まれるのが普通。魔力が多い動物はモンスターになる。魔力が多い人間は冒険者になれる」

〈え、ちょっと待って〉


 魔力が多い動物がモンスター、はわかる。

 けど、魔力が多い人間は魔法使いになる、んじゃないの?


「ちがう」


 ロロコは首を振った。


「魔法使いは魔力を操る才能がある人。それが魔法。魔力を持ってるだけだと、スキルとかは手に入れられるけど、魔法は別」


 なるほど……。

 魔力はあくまで燃料なわけだ。

 で、それを魔法という形で使えるのが魔法使い。

 魔法を使えないけど魔力が多いやつは、普通の冒険者ってことか。


〈冒険者ってのは、どのくらいの数いるもんなんだ?〉

「地域や種族による。普通は、千人に一人くらいって、ラッカムのおじさんは言ってた」

〈ふーん〉


 そのラッカムって人が誰か聞いてみる。

 近くの街の自警団長らしい。


「冒険者になるには、MPが生まれつき10は必要。それより少ない人は大抵上昇しない」

〈MPが魔力の量のことなのか〉

「そう」


 俺の序盤でのMPはたしか12だったな……。

 けっこうギリギリじゃねえか。

 いや、リビングアーマーはまた基準が違ってくるのかもしれないけど。


〈じゃあ、魔法攻撃力と魔法抵抗力ってのは?〉

「そのまま。魔法を使ったときの攻撃の強さと、使われたときの抵抗の強さ」

〈ってことは……モンスターも魔法が使えるってことなのか?〉


 モンスターたちのステータスにも、同じ項目があるもんな。

 ロロコは頷いた。


「モンスターの場合は、身体に魔力を操る器官を持ってる。人間の場合は、それを呪文詠唱とか魔法陣とかで代用してる」


 なるほど。

 モンスターどもは、天然の魔法使いってわけか。


 ……ってことは、俺は魔法使いの才能が皆無ってこと?

 なんせ、攻撃力も抵抗力も一桁だもんなぁ。


 そう言うと、ロロコは首を振った。


「がんばれば、いける」

〈本当か!?〉

「たぶん。レベル1万とか行けば」

〈…………〉


 なにを倒したらそんなことになるんだよ!

 はぁ……魔法を使うのはあきらめたほうがよさそうだな。


〈……あれ、じゃあ、MPって、バトルのときの参考にはならないのか?〉


 ガソリンの量が多いからといって、その車が速いとは限らないもんな。

 と思ったら、ロロコはまた首を振った。


「MPは、あとどこのくらい魔法を使えるかの目安になる」


 ああ、そうか。

 MPが残り少なければ「こいつはもうそんなに魔法使えねえな」とかわかるもんな。


 なるほどなるほど……。

 だいぶわかってきたぞ。


〈それにしても、ロロコは詳しいんだな。魔法使いの師匠とかがいるのか?〉

「こういうのは、全部ラッカムのおじさんが教えてくれた」


 ラッカムのおじさんありがとー!

 間接的に俺もいろいろ助かってるぜ!


〈あ、ところで、ロロコ自身はレベルとかMPとかどのくらいなんだ?〉

「それは……わからない」


 あれ?

 なんかいま、ちょっとだけ口ごもった?


「……人犬族は、冒険書を持てないきまり」

〈え、そうなのか?〉

「領主さまがそう決めてる」


 くそ、なんなんだその領主は。


 領主の部下の男も、ロロコのことを『クソ犬っころ』なんて呼んでたしな。

 そんな場所、さっさと脱走して正解かもしれないな。


 なんて考えてると、


「ぎゃあああああああ!」


 悲鳴だ。

 後ろから?


 俺とロロコは足を止めて振り返る。


 噂をすればなんとやら。

 さっき俺を見て逃げ出した領主の部下の男二人が、こっちへ走ってくる。


 ……のはいいんだけど!

 その後ろになんか余計なもんがついてきてるな!


 巨大なコウモリみたいなモンスター。


 それが、男たちを追って、こっちに向かってきてるのだった。

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