19 コウモリの巣へいらっしゃ~い

「ぎゃあああああ!」

「うぎゃあああああ!」

〈ぎょおおおおおおお!〉

「…………」


 男三人の悲鳴が響く。

 ってまあ、男のうちの一人はリビングアーマーつまり俺なんだけど。

 犬耳っ娘のロロコはひとり黙々と走る。 


 追ってくるのは巨大コウモリだ。

 洞窟をふさぐほど大きな羽。

 それが二匹。

 道を塞ぐように飛んでくるので、みんなで同じ方向に逃げるしかない。


 バッサバッサ!


 すごい羽音だ。

 風邪が背中にぶち当たる。


〈な、なあ、ロロコ!〉

「なに」

〈さっきみたいに魔法で丸焼きにできないのか!?〉

「むり」

〈なんでっ!?〉

「プテラマウスは羽の魔法抵抗力が高い。防がれる」


 くそ!

 っていうか、あいつらプテラマウスっていうのか。

 じゃあネズミの仲間なの?


 男たちがロロコに向かって声をあげる。


「なんだてめえ、魔法使えたのか!?」

「けどこいつは倒せねんだろ? 使えねえな!」


 勝手なこと言ってやがる。

 しかし、ロロコが魔法を使えることを知らなかったのか?


〈ひょっとして内緒にしてた?〉

「うん。でも、いまはそれどころじゃないから、いい」


 そうだったのか。

 人犬族は、領主から冒険書の使用を禁止されてたんだったな。

 魔法の習得もしないよう決められてたのかも。


〈で、どうすれば倒せるんだ、こいつら?〉

「プテラマウスの羽は、物理防御力は低い」

〈一撃叩き込めればいいわけか〉


 とはいえ……そりゃむずかしいだろ。

 だってこのコウモリさん、羽のまわりに爪をたくさん持ってる。

 普通のコウモリもあるでしょ?

 あれのもっと長いのが、もっと大量についてる感じ。

 攻撃なんかしかけたら、当たる前にこっちが串刺しになりそう。


「あ」

〈ん? どうした、ロロコ〉

「この先、右に曲がって」


 ロロコは男たちに呼びかける。

 男たちが右側を走っているのだ。


「右って……あの横道か?」

「ばかやろう、こんなところ行き止まりに決まってるだろ!」

「あ」


 なんて言ってる間に通りすぎてしまった。


「いまの、ダンジョンの出口だったのに」

〈なにぃ!? じゃあこの先は……?〉

「どうなってるか、わからない」


 なんてことだ。

 くそ、こいつらっ!


 お、なんだ?

 男たちは男たちでこっちを睨んでやがる。


「こ、このクソ犬! もっとちゃんと言わねえから!」

「どうすんだよ、おら!」


 えー……。

 マジかよこいつら。

 ロロコの指示を無視したのお前らじゃん!


「くそっ、こうなったら」

〈お、おい、なにやってんだ?〉


 男の一人が、剣を抜いた。

 コウモリに立ち向かうのかと思ったら……。

 俺たちに剣を向けてくる。


〈どういうつもりだよ!〉

「うるせえ化け物! てめえはなんでさっきから当たり前みたいに会話してるんだよ!」


 いや、そんなこといまさら言われましても……。


「そ、そうだそうだ!」


 と、男のもう一人も剣を抜いた。


「化け物とクソ犬、お前らおとりになれよ!」

〈はぁ!?〉

「そうすりゃ、俺たちは助かるんだ! おら、行けよ!」


 いやいやいやいや……。

 いやいやいやいやいやいやいや!


 なに言ってるんですかこの人たち!?


 まあ、百歩譲って俺はいいよ。

 こんな見た目だし。

 リビングアーマーって基本モンスター扱いらしいし。


 けど、ロロコは犬耳犬尻尾つきとはいえ、ほとんど人間だ。

 しかも幼い女の子だ。


 それを、おとりに?


 しかもこの場合、魔法が使えるから、みたいな理由もなし。

 自分たちが助かるために死ねと言ってるようなもんじゃないか。


 ふざけんなよほんと……。


「おら! 行けって!」

「早くしろよぉ! おい!」


 ちょ! そんな興奮して剣振り回すなって!


 なんていうか、恐怖で冷静な判断もできなくなってるっぽい。

 だからって、俺らをおとりにするのはどうかと思うけどね!


「おらぁ!」

〈あ、バカ!〉


 男がこっちに向かって剣をぶん回してきた。

 それが俺の鎧に当たって、はじかれる。


 がいん!


「わっ!」

「お前! なにやって――!」


 はじかれた剣に振り回されて、男たちはバランスを崩した。


 あ、転んだ。


「ひ、や、やめろ――!」

「た、助け――!」


 バスン、ドスン――。


 ちょっと嫌な音が響いた。


 男たちは巨大コウモリの鋭利な爪に、身体を串刺しにされてしまった。


 うえー……。

 これはショッキングだ。

 いくらひどいやつらとはいえ……。


 ……まあ、俺とロロコをあんなふうにしようとしてたやつらなんだけどな。


「あ」

〈なんだ、どうした?〉


 ロロコの声に、前のほうに視線を戻す。


 お、広い空間に出るぞ。

 ひょっとして、こっちの道も出口につながってたりして――。


〈――うわああああああああ!〉


 ――そんなことはなかった。


 広い空間。

 その天井中に、巨大コウモリがいた。


 ここは――プテラマウスの巣みたいだ。

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