29 蜘蛛の糸ブランコ

 ――ドヒュン!


 壁を走る巨大蜘蛛が、俺とロロコの乗るトロッコに向かって糸を放ってきた。


〈うわぁ!〉

「いまのは危なかった」


 焦るわ!

 なんだあれ!


 さっきまで俺たちを襲ってきた空飛ぶ蜘蛛とはべつのやつなのか?


「あれは、多分ストリング・アラクニド」


 ストリング……って糸のことだよな?

 じゃあ、普通じゃね?

 蜘蛛だったら、たいてい糸吐くよね?


「ストリング・アラクニドは糸が丈夫。すごく」

〈丈夫って、どのくらい?〉


 そりゃあのサイズなら糸も太いだろうけど……。


 ――ドヒュン!


 バギャゴン!


 うわぁ!

 糸でトロッコの後部が吹っ飛んだ!


 土台と下の車輪は無事だな。

 よかった……。


 しかしなんだあの糸。

 糸っていうか、槍じゃねえか。


「あれくらい丈夫」

〈よくわかったよ!〉


 淡々と言ってくるロロコに叫ぶ俺。


 しかしこれ、ほっといたらまずいぞ。

 あんな攻撃を何度もされたら、トロッコがなくなっちゃう。


〈くそ……見てろよ〉


 俺は周りを飛ばしていた鱗状鎧の金属板を巨大蜘蛛めがけて飛ばす。


 ヒュン!

 サッ。

 カツンカツン。


 ヒュン!

 サササッ。

 カツンカツンカツン。


 ええい!

 すばしっこいなこいつ!

 全然当たらないじゃないか!


 ――ドヒュン!


 ゴギャバガン!


〈おわぁ!〉


 ちくしょう!

 またやられた!


 どんどんトロッコの外枠が壊されてく。

 このままだと、動かすためのシーソーみたいな機械が丸見えになっちゃう。

 これを狙われるとまずい。


 どうにかしないと。


「あの辺に追い詰めて」

〈ん? ――なるほど、わかった〉


 ロロコが指差す先を見て、俺は頷いた。

 なるほどな!

 よし!


 ヒュン!

 ササササッ!

 カツンカツン。


 ヒュンヒュン!

 ササササササッ!

 カカカカカツ。


 金属板を駆使して、蜘蛛の進路をこっちが決めてやる。

 蜘蛛はまんまとはまって、ロロコが指定したあたりに誘導された。


 そのあたりは、周りの岩が大きく盛り上がってて、移動に時間がかかる。

 事実、蜘蛛は脚を大きく動かして、山を乗り越えるように移動しようとする。

 その分、少しだけその場にとどまる形になる。


 そこへ。



「ファイア!」



 よっしゃ!


 ロロコの放った火の玉が蜘蛛へ向かって突っ込んでいって――。


〈――なにいいいいいいい!?〉


 蜘蛛、飛びよった!?


 こいつストリング・アラクニドでしょ!?

 フライングすんなよ!

 名前に偽りありじゃねえか!


 巨大蜘蛛は尻からぶっとい糸を天井に飛ばしてゆらゆら。


 あ、けど、やっぱちょっと無理があったみたい。

 すぐに落下してきた。


 線路に落ちて、トロッコの後ろを走って追いかけてくる。


 ん?


 なんですかそのちょっとお尻を持ち上げたポーズは。


 ドヒュン!


 のわーーーーーー!


 糸がこっちに向かって放物線を描いて飛んできた。


 ぐるぐるぐる、と車輪を巻き込んでトロッコに絡みつく。


〈ぐっ……つかまれ!〉

「うん」


 俺とロロコはシーソー機械にしがみついた。


 ガクン!と激しい衝撃。


 蜘蛛は八本の脚を使って大ジャンプ。

 ふたたび横壁へ飛び移る。


 って、ちょっとおおおおおおおおぉ!?


 トロッコが線路から外れて宙に浮く。

 蜘蛛の糸でつられて、ブランコみたいな状態だ。


 ゆらゆら揺れて、アトラクションみたいだが、そんなのんびりした状況じゃない。


 このままだと、壁に激突する!

 トロッコはぶっ壊れ、俺たちは谷底に落下しちゃう!


 どうする?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る