第4章 フィオンティアーナ編

126 空をこえて~

 どうも、リビングアーマーの俺です。

 隣にいるのは人犬族のロロコ。

 反対の隣にいるのはドワーフ嬢のアルメル。

 そして、俺の鎧の中にいるのはゴブリン娘のラファ。


 そんな俺たちを乗せているのはドラゴンの姿に戻ったドグラである。

 俺たちは彼女の背中あたりに乗っている。

 もう一人、エルフのクラクラが首のあたりに乗っている。


 そして、俺たちは空を飛んでいた。


 すごい速度だ。

 さっきまでいた絶海の孤島ダンジョンの島があっという間に遠ざかる。

 そして大陸の上空に来た。


 緑色の筋みたいなのが見える。

 あれがヴェルターネックの森かな。

 あの下に大洞窟ダンジョンが広がっている。

 いくつもの山、いくつもの都市があっという間に通り過ぎていく。


 けっこう上空を飛んではいるが、下ではドラゴンが出たって騒ぎになってるかもな。


 まあ勘弁してもらおう。

 緊急事態だからな。


 ラファが高熱を出して倒れてしまった。

 ドグラによれば、魔力過活性症という症状らしい。

 直すには、原因であるゴーレムパーツの義手を外さないといけない。

 そのためには手術が必要。

 そんな手術ができる医者がいるのは、大陸南方のフィオンティアーナだけ。


 というわけで俺たちは急遽そこへ向かうことにしたわけだ。


 しかし普通に向かったんじゃ時間がかかってしょうがない。

 なにしろこの世界、飛行機なんて便利なものはない。

 鉄道もまだ存在していないみたいだしな。


 大昔には転移魔法なんて便利なものがあったらしいけど。

 その技術は失われて久しいんだそうだ。


 どうしたものかと考えているところへ、ドグラが提案してくれた。

 ドラゴンの彼女に乗って飛んでいかないかってな。


『その、色々と迷惑をかけたしの……それにそやつはクラクラの仲間なのであろ?』


 と、もじもじしながらクラクラを見るドグラ。


 まあ、クラクラとラファは実は初対面だったわけだけど。

 クラクラは頷いてくれた。


 そんなわけでこうなったというわけだ。


 ちなみにリザルドさんたちは先にフリエルノーラ国の安全な場所におろしてきた。


 クラクラにもフリエルノーラの王城に寄っていくかと訊いたんだけど。

 急ぐだろうから後でいいと言ってくれた。


 あ、そうそう。

 ゴーレムは孤島に置いてきた。

 暴れないように指示を出してきたので大丈夫なはずだ。


「それにしても不思議ですね」


 アルメルが言ってくる。


「すごい勢いで飛んでるのに、ほとんど風を感じませんし、振り落とされそうにもなりません」


「快適」


 ロロコも頷く。


 そういやそうだな。


 こんな速度なら、びゅうびゅう風が吹き付けてくるはず。

 どこかにしがみついてないと落っこちちゃうだろう。


 けど、俺たちは普通にドグラの背に座っているのだ。


「我々ドラゴンは翼だけで飛んでいるわけではないからな」


 ドグラが言ってくる。


「身体を魔力で包んで、それを移動させることで飛んでおるのじゃ」


 おお、なるほど。

 ドグラを含む空間がすっぽり魔力で守られている状態なんだな。

 それでその中にいる俺たちも平気なんだ。


 便利だな。

 ドラゴンが人間に協力してくれたら、交通輸送の革命が起こりそう。


 まあ無理だろうけど……。


 ドグラはこれでも、人間に好意的なドラゴンのようだ。

 彼女の妹は七つの都市を滅ぼしたらしいし。

 他にも、多くの災厄をもたらした伝説のドラゴンがたくさんいるそうだ。


 そんなドラゴンの多くは、なぜか今はあまり暴れていないうようだけど。

 かといって人間の味方というわけでもない。


 協力して文明を発展させる、なんて話にはならないんだろうな。


「ところで」


 とロロコがドグラに問いかける。


「ライレンシアはどんな人だったの?」


 お、それはたしかに気になるな。

 ドラゴンが惚れたエルフ。

 一体どれほどの美人だったのか。


「そうじゃな、一言で言うなら――」


 とドグラは昔を懐かしむような口調で言う。


「可愛くて優しくて綺麗で可憐で、全てにおいて完璧で、非の打ちどころがなく、まるで太陽のように明るく、月のように静かで、風のように爽やかと思えば火のような熱さも持っていて――」


 ……………………一言とは。

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