70 進撃のリビングアーマー軍団

 どうも、リビングアーマの俺です。

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 どうも、リビングアーマの俺その7です。8です。9です――


 え、それはもういいって?


 いやーごめんごめん、なんか楽しくなっちゃってさ。


 なにしろ五十四体である。

 俺が五十四体、横に並んで道を進撃しているのだ。


 チェインハルト商会のエドに借りた魔響震対策済みの最新鎧。

 そこに俺の意識をコピーさせてある。


 それが街の南城壁を出て、ドラゴン復活間近の湖に向けて進軍中というわけだ。


 手には剣と盾を装備している。

 超強そう。


 しかも、


 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴ。


 ドラゴンが眠る湖に近づくにつれて魔響震がどんどん大きくなってる。

 けど!

 なんともない!


 前の鎧だとあんなに気持ち悪くなったのにな。


 というわけでいざドラゴン退治!


 いや倒さないんだっけ。

 封印するだけ。


 五十四体いるオレのうちの一人が、エドから預かった金属板を持っている。

 そこにはドラゴンの魔力を封じる魔法陣が描かれている。


 これをドラゴンの口に放り込めばミッションコンプリートだ。


 うまくいくかな……。


 まあ最悪この五十四体が全部ぶっ壊れても問題ない。

 オレの意識はもともと宿っていた鎧の方にも残してあるからだ。


 この街に来るまで使っていたやつね。

 魔響震の影響で意識を失って。

 そのあと街のあちこちに行っちゃってたけど。


 そのあと南城壁に集まりつつある。


 そっちの様子も見ておこうか。


◆◇◆◇◆


 はい、こちら南城壁上のオレです。


 ロロコと兜パーツ。

 ラッカムと右脚パーツ。

 エドと左脚パーツ。


 この三人と三つが揃ってる。


 ドワーフ嬢のアルメルと胴体パーツはここに向かっている途中。


 残る腕パーツはまだエルフのクラクラに装着されている。

 クラクラは休憩を終えて、また亀モンスターの討伐を行っている。

 タフだなぁ……。


 しかし、おかげで亀モンスターはだいぶ数を減らしていた。


 中には暴走をやめて動かなくなった奴もいる。

 街に突っ込めば討伐されるし、かといって湖畔に戻ればドラゴンがいるし……。

 と亀も困っているのだろう。


 そんな状況で絶賛バトル中だが、城壁ではなんか重要な話をしてる。

 ええい、場面が飛んでややこしいな。


 なんだって?


 ロロコの仲間はここに来てない?


 え、どういうこと?


 ラッカムさんが人犬族のみんなを連れてきてると思っていた。

 オレとロロコはそこに合流するためにこのバリガンガルドまでやってきた。


 なのにいないって……。


「心配しないでくれ。人犬族のみんなは安全だ」


 とラッカムさん。


「なんで?」


 と首を傾げるロロコ。

 疑ってるっていうより、単純にわからないって顔だな。


 そりゃそうだ。

 ついこの間まで領主にひどい扱いを受けていたのだ。


 なのにもう問題がなくなったなんて簡単に信じられない。


「私から説明いたしましょう」


 とエドが言ってくる。

 え、なんであんたが?


「人犬族の皆さんには生活の安定と安全を保障し、賃金も支払った上で、魔鉱石の発掘を行ってもらっています」


 ほーん?


 エドの話によれば、あのクソ領主は森で行方不明になってしまったらしい。

 おそらくは魔物に殺されたんだろう、とのこと。


 で、今あの土地は隣の領主が治めることになったらしい。


 その領主はチェインハルト商会と結びつきがあった。

 それで魔鉱石の採掘を商会が担うことになったそうだ。


「もともと我が商会には採掘の技術や道具が揃っていますからね。大陸の各地でそのような仕事をやらせていただいています」


 つまり、商会が人を雇い魔鉱石を掘り出す。

 取り決めておいた利益の一部をその鉱山の持ち主に支払う、という形だ。


 魔鉱石は魔力をよく伝達する素材のこと。

 それらは冒険者が使う魔道具の材料になるのだ。


 おお、オレの冒険書の背表紙に嵌め込まれている宝石みたいな石。

 これのことだな。


 なるほどね。


「採掘を鉱山の持ち主に一任している土地も多いのですが、あの領主――バルザックのような例があるのなら、商会が直に管理する場所を増やしたほうが良いでしょうね」


 困ったものです、と首を振るエド。


 うん。

 胡散臭い奴だなーと思ってたんだけど。


 ひょっとしていい人なのかなこの人?


 オレに鎧貸してくれたし。

 いや、ドラゴンが暴れたら商会も困るからってことなんだろうけど。


 あれだよあれ。

 利益目当てだってはっきりしてる奴はむしろ信用できる、みたいな。


 そんなことを話している間に、胴体パーツとアルメルも城壁に到着した。


「いーやー! ひーとーさーらーいー!」


 相変わらず叫んでるなードワーフ嬢。


「…………」

「…………」

「…………」


 ちょっと!

 みんなして白い目で見るのやめてくださいよ!


 どっちかっていうと最初にオレを勝手に身につけて攫ったのあの子の方だから!


〈ロロコ。この絡まってるベルトを外してくれ〉

「そのあとロープで縛ればいい?」

「ひっ!」

〈やらんでいいやらんでいい〉


 しばらく暴れていたアルメルだったけど。

 周りにオレ以外の人間がいることでちょっと落ち着いたようだった。


 特に、エドとは顔見知りだったみたいだ。


 さすが商人。

 顔が広いな。


「ありがとうございます、アルメルさん。あなた方ドワーフ族の作ってくれた鎧が、さっそく役に立とうとしています」


 エドがアルメルにそんなことを言っている。


 なんと。

 あの鎧、アルメルたちがつくったものだったのか。


 そりゃあ大感謝だな。


 と思ったら。


「え! あの鎧使ったんですか!」


 あの、アルメル嬢。

 そんな青い顔するのやめてくれませんかねえ。


 嫌な予感しかしないんですが。


「……なにか問題がありましたか?」

「早く伝えなきゃと思ってたんですが……」


 静かに問うエドに、アルメルは答える。


「あの鎧の術式、ミスがあるんです」


 なんだとおおおお!?

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