196 ダンジョンについて

 この天空塔ダンジョンが崩壊する。

 そして、その影響で魔王が復活する――。


 ヘルメスさんはそう言う。


「待ってください。ダンジョンが崩壊するなんて……そんなのありえるわけが……」


 愕然とした声で言うアルメル。


〈ダンジョンってのは崩壊しないもんなのか〉


 異世界から来た俺には、その辺の匙加減はわからない。


 クラクラが答える。


「聞いたことはないな。崩落などで形を変えることはあるが、崩壊する……なくなってしまった、という話は聞かない」


「そうじゃな。ダンジョンはこの大陸の土台のようなものじゃろ。それが崩れてなくなるなどと……」


 ドグラも疑わしそうな顔だ。


 ちなみにロロコとクラクラは首を傾げながら顔を見合わせている。


 誰も信用していない様子だ。


〈……本当なのか?〉


「ええ。ダンジョンが不滅というのは、短い時間の幅のことでしかありません。この星の歴史の中で見れば、ダンジョンは生成と消滅を繰り返しています」


 大陸移動説と同じか。

 あまりにゆっくりすぎて、人一人の一生では確認できない。

 だから、大陸移動説は二十世紀の頭まで信じられていなかったんだよな、確か。


「まあ、そもそもこの天空塔ダンジョンはわたくしが作ったものですから。人工のダンジョンは、自然のダンジョンに比べれば耐久力が低いのは当然でしょう」


「えええ? ダンジョンを作った!? ……いえ、ヘルメスなら、それも可能ということですか……」


 これも俺にしてみれば、そのほうが納得するくらいの話だった。


 だってこのダンジョンだけおかしいでしょ。

 塔って……。


〈でも、なんのためにこんな塔を作ったんだ?〉


「一つは魔王の復活を阻止する『封印』のためです。この塔は、大陸のダンジョン全ての魔力の流れを制御する装置の役目を果たしています。そうすることで、魔王の破片が魔力を増さないようにしていたのです」


 なるほど。

 それが崩壊してしまえば、大陸中のダンジョンの魔力の流れが変わる。

 魔王の破片が魔力を取り戻し、魔王が復活してしまう……というわけか。


「そしてもう一つは、世界を作り替える救世主を見つけ出すことです」


 ヘルメスさんはそう言って俺を見る。

 結局そこに話が戻ってくるのか……。


「天空塔ダンジョンを永久に保たせることは不可能です。ですから、崩壊する前に、世界を作り替え、魔王を復活できないようにする力を持った存在をここへ招き、真実を伝える……それがわたくし――ヘルメスの意識の残滓の役目です」


 それが俺ってわけか?

 しかし……。


〈……それにしちゃずいぶんギリギリじゃないか?〉


 俺がここに来たのは色々な偶然が重なった結果だ。

 もしちょっとでも歯車がずれてたら、俺が来る前にこのダンジョンが崩壊してた。


「それは、いくつかのイレギュラーがあったからです」


 ヘルメスさんは苦笑する。


〈イレギュラー?〉


「はい。一つは、本来救世主となるはずだった人物が、それを拒否したことです」


 あ、そんなことできるんだ。

 いや、でもすげえな。


 世界が滅びるから救世主になって。

 いやです。


 ……ってなかなか言えないぞ。


「その人物は、わたくしの話を聞いたあと、熱に浮かされたように、このダンジョンを出ていってしまいました。そして、得た知識を元に研究を行い、今では大商会を運営しています」


 ………………ん?


 大商会?


〈ええと、まさかその人物って、俺たちの知ってる人?〉


「はい。エド・チェインハルトが、本来救世主となるはずだった人物です」


 やっぱりあいつかーーーーーーー!

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