197 転生と召喚について

 エド・チェインハルトが、俺の前の救世主候補だった……。


 なんか一気に色々納得できた感じがするぞ?


〈……つまり、あいつも、俺と同じように、異世界から?〉


「はい。彼も、元はあなたと同じ世界の住人です」


 しかもたぶん同じ日本なんだろうな。

 それであいつ、俺の冒険書に書かれた日本語を読めたんだ。


「救世主としての力を持つ存在が、この世界に生まれるのを待つには時間が足りなかったのです。そこで異世界からの召喚という手段を取らせてもらいました。勝手なことをしたのは申し訳なく思っております」


〈いや、それはいいよ〉


 そもそも俺は、あっちの世界で死んでるはずだったんだ。

 こっちの世界の生活はいわばボーナストラック。

 むしろ感謝したいくらいだ。


「じゃあ、ヒナワが言ってた、魔王っていうのは」


 とロロコ。


 そうだ。

 フィオンティアーナ近くの研究施設。

 あそこでヒナワが見たという巨大な肉の塊。

 エドが『魔王陛下』と呼びかけていたという……。


 あれは正真正銘、魔王の一部だったってわけか。


 ここでヘルメスさんの話を聞いたエド。

 しかし救世主になることはせず、ここを脱出。

 そして得た知識で何かをしようとしている……。


〈あいつは何をしようとしているんだ?〉


「魔王を復活させようとしているのだとは思いますが、なんのためにそんなことをしているのかはわかりません。わたくしは、この大陸の情報を得ることはできるのですが、人の考えまではわかりませんので」


「魔王を復活させて、一緒に世界を支配しようとしているのか?」


 とクラクラ。

 しかしヘルメスさんは首を横に振る。


「いえ、次に魔王が復活すれば世界が滅びます。それは人類がいなくなると言ったような生やさしいものではなく、この大陸が、場合によってはこの星が消え去るといったような事態となるでしょう」


 だとすれば、エドにとっても魔王を復活させるメリットなんかないってことだ。


 なにを考えてるんだ、あいつは……?


 まあしかし、ここにいないやつのことを考えていても仕方ない。


〈イレギュラーはいくつかあるって言ってたよな。他のはなんなんだ?〉


「はい。もう一つは、この下――最上階に当たる場所に、この塔の動作を阻害する装置が取り付けられてしまったことです」


 俺たちが撤去しに来たやつだな。

 確かヴォルフォニア帝国のライレンシア博士が取り付けにきたっていう……。


「そうです。本来はあれは、大陸の魔力の流れを調べるための観測装置のようです。この塔が、その目的のために最適な場所だということを突き止めたのは、さすがわたくしの子孫といったところですが、この塔の役目と、あの装置がその役目を阻害してしまうことまでは気づかなかったようです」


 その装置のせいで、この天空塔ダンジョンの崩壊が早まってしまった。

 そういうわけか。


 ダンジョン入り口の館がなくなっていたこと。

 モンスターが外に溢れ出していること。


 それらはダンジョン崩壊の前兆だったんだな。


「さらに、エド・チェインハルトの活動によって、冒険者の行動範囲が大きく広がったことも想定外でした。モンスターはこれまでにない速度で狩られ、ダンジョンは奥地まで探索され、魔鉱石は次々と発掘されていき、この大陸の魔力分布が大きく変動しています」


 天空塔ダンジョンの機能がそれに追いつけなくなっているってわけか。


「ええ。なので、早急になんとかしなければならない状況なのです」


 そしてそのために俺が必要……。

 そう言われても実感がないよなー。


 ん……?


 なんか忘れてるような気がするな?


「ヘルメスさん、大変ですわよ」


 と、塔のフェンスの向こう側から声が聞こえた。


 そっちってつまり空だよね?

 なんでそんなところから声が?


 ――ぶわっ!


 と風が巻き起こったかと思うと。


 ぎゃーーーーー!

 ドラゴン!?


「マグラ!」


 ドグラが声を上げた。


 そうだった。

 ドラゴン娘の双子の妹!

 すっかり忘れてた!

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