195 魔王について

 ヘルメスさん曰く、俺は救世主らしい。

 救世主としてなにをするかというと、


「世界を作り替えていただきたいのです」


 うん。

 具体的になにをするのかさっぱりわからないね!


〈つまり、なにをすればいいんだ?〉


「魔王が復活しないようにしていただきたいのです」


 うん。

 まだわからん。


「困りましたね。どこからお話しすれば良いでしょう」


 苦笑し、首を傾げるヘルメスさん。

 意識の残滓とやらのわりに、ずいぶんと表情豊かだ。


「あの、そもそも魔王ってなんなんですか?」


 とアルメルが問いかける。


 そういやその疑問が残ってたな。


 ドグラの話では、魔王とは、太古に存在したと言われる『魔力の源』だ。

 世界の終わりに、全てを魔力で飲み込んでしまうとかなんとか。

 ドラゴンの伝承にはそうあるらしい。


 一方で、ヤマトの里のシノビであるヒナワの話だと……

 魔王は魔族を率いる王で、原初の魔法使いヘルメスに倒されたと言われている。

 こっちはスタンダードなイメージの魔王だ。


 どっちが正しいんだ?


 そう問いかけると、ヘルメスさんはこう答えた。


「どちらも正しいですね」


 ああん?


「魔王は、太古に存在した魔力の源です。そしてその残滓は今もこの大陸の近く深くにあり、魔力の供給源となっています」


「それで、地下に存在するダンジョンに魔物が発生するんですか!」


 アルメルが目を丸くする。


「そうです。そして、その魔力の源から発生した種族が魔族です。それが純粋な魔力体なのか、魔物が進化したのか、人型種族が魔力によって変化したのかはわかりませんが」


 魔族か。

 今のこの世界にはいないみたいだけど、昔はいたってことか。


「魔族は『魔力の源』を信奉し、その元に世界を支配しようとしました。そして、特殊なスキルにより『魔力の源』に人格を付与したのです。それが魔王となりました」


 なるほど。

 それが、ヒナワが言ってた方の魔王伝承になるわけか。


「そうですね。わたくしは魔族が扱っていた力を研究し、魔法の体系を築きました。そして、仲間とともに魔王と魔族の軍勢を打ち倒しました。結果、魔王は人格を失って、その破片は大陸地下の各地に飛び散りました。それが現在の多くのダンジョンの元となっています」


 そうか。

 チェンハルト商会のエドは、そのうちの一つを発掘したんだな。


「魔族たちはその一部を利用して魔王の復活を目論みましたが、それはわたくしが作ったゴーレム軍団によって阻止しました。和解の道も探りましたが、魔族たちは受け入れず、激しい戦闘の末、魔族は全滅しました」


 ……絶海の孤島ダンジョンのゴーレムがそれってことか。


〈その、バラバラになってる魔王が、復活しようとしてるのか?〉


「そうです。この天空塔ダンジョンの崩壊によって」

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