28 蜘蛛が空を飛ぶ~

 ダンジョンから鉱山の中の坑道にたどり着いた俺とロロコ。


 行き先は三つの線路に分かれている。

 どれか一本が地上への出口。

 ただし一本は壊れてるので、谷底へ転落ルート。


 というわけで、俺は、鱗状鎧パーツの金属板に視覚を移して偵察に飛ばしていた。


 慣れてくると簡単だな。


 視覚を移すっていうよりコピーする感じ。

 いまは複数の金属板に視覚があるし、本体でも周りを見ることができる。


 頭のなかがややこしいけどな。

 まあ、あれだよ。

 映画とかで、司令室で複数のモニタを監視する、みたいなシーンあるじゃん?

 あんな感じになっってる。


 なんかどんどん人間離れしてくな、俺……。

 まあリビングアーマーに転生してる時点ですでに人間じゃないんだけどな!


〈ふむふむ……〉

「どんな感じ?」

〈右の線路は下に下ってってるな。中央のはまっすぐだが……あ〉

「どうしたの」

〈左の線路が壊れてる。これが外れだ〉


 ってことは、出口に向かうのは真ん中の線路だな。


 俺は金属板を帰還させつつ、放置されてたトロッコを中央の線路に乗せた。


 トロッコはやや大型で、大人でも10人くらいは乗れそうだ。

 前のところに、シーソーみたいな機械が取り付けられている。

 これをギッコンバッタンすることで、前に進むんだろう。


 お、金属板たちも戻ってきた。


 よしよし。

 なんか伝書鳩でも使ってる気分だな。


〈よし、じゃあ行くか〉

「ん」


 俺とロロコはトロッコに乗り込んだ。


〈せーの〉

「いち、に」

〈さん、し〉

「いち、に」

〈さん、し〉


 ギィコ、ギィコ、ギィコ、ギィコ……。


 シーソーみたいな機械のバーを動かすと、トロッコが動き出した。


 おお。

 これはなかなか楽しいぞ。


 少しずつペースを上げていく。

 トロッコもだんだん加速していく。


 カタンカタンカタン――。


 あははは!

 いいぞいいぞ!

 もっと早く走れー!


 なんか爽快だな。

 洞窟を疾走するトロッコ。

 吹き付ける風。

 横を並んで飛んでいく蜘蛛。


 ――ん?


 なんかいま変なのがいた……。


 くるっ――。


〈ぎゃああああああああ!?〉


 蜘蛛!?

 蜘蛛が宙を飛んでる!


 なんでだよ!


「おお、フライング・アラクニド」


 空飛ぶ蜘蛛!?

 なんだそのふざけた生物は!


「飛ぶと言っても、天井から糸でぶら下がって移動する。糸が丈夫な種族」


 なるほど……。


 並走する蜘蛛は、下側に膨らむ円運動みたいな動きをしてる。

 よく見れば、定期的に尻から糸を上に飛ばして、うまく移動してるのがわかった。


 それにしても速いな。

 このトロッコも、いまけっこうな速度でてると思うぞ。


「見て見て。こっちにも」

〈ん? ――ぎゃあああああ!〉


 反対側を見ると、蜘蛛さんが十匹くらいトロッコと並走していた。


 きもっ!

 なんだよこの光景!


 とか言ってる間に反対側にもいっぱい!


 あの、これ、ちょっとやばくないですかね?


 ――ガチガチガチガチ!


 ほら!

 言ってるそばから!


 蜘蛛がこっちに飛んできて、牙で攻撃してくる。


 ――ガチガチ!

〈ぬお!〉

 ――ガチガチ!

〈ふぉ!〉


 左右からランダムに襲ってくるので、避けるのが大変だ。


 しかも、そっちにばかり気がいってると、トロッコが動かなくなっちゃうし。


〈ロロコ! こいつらなんとかできないのか!〉

「やってみる」



「ファイア!」



 ロロコの炎魔法が炸裂。

 洞窟が、明かりに包まれる。


 けど……。


 ――ふわっ。


 簡単に避けた!?


「やっぱり」

〈どういうことだよ?〉

「フライング・アラクニドは超軽い。ちょっとの風でも避けてしまう」


 なるほど。

 こうやって空中移動するために進化したってわけね。


 それにしても、炎が生んだ風圧で動いちゃうとか軽すぎだろ!


 よし、こうなったら俺の金属板攻撃で……。


 ――ガチガチガチガチ!


 バキバキ!

 ベキン!


 ぎゃー!

 やめてやめて!


 蜘蛛の連続攻撃を避けられず、トロッコが壊された。


 しかも、バランスを崩して、大きく傾く。


 うわわわわわ!

 落ちる落ちる!


〈ロロコ! こっちに!〉

「わかった」


 二人で右側に移動して傾きを直した。


 ふぅ……。


 と思ったらまた蜘蛛が!


 ――ガチガチガチガチ!

 ――ガチガチガチガチ!


 バキバキバキバキボキンボキン!


 今度は二連続!

 どんどん壊されてくー!


 くそっ。

 もしトロッコがなくなったら、こんな不安定な線路を歩くはめになるじゃないか。

 冗談じゃない。


 おらっ。


 上半身と下半身を分離。

 上半身はトロッコのシーソーを動かすために残し、下半身は金属板を載せて移動。


 いくぞ!


 ――ヒュンヒュンヒュンヒュン!


 飛び回る金属板。

 狙うのは蜘蛛――じゃなくて、そのちょっと上だ。


 ――バツン!

 ――ブツン!

 ――ヒュン!


 と、けっこう派手な音が響いて、蜘蛛たちを吊るす糸が切れていく。

 支えを失った蜘蛛はそのまま谷底へ真っ逆さまだ。


 へっへーん。

 ざまあみろ。


 蜘蛛たちは変則的な動きをして糸を切る金属板をかわそうとするけど、むだむだ。

 500枚以上ある板をぜんぶかわすなんてムリムリ。


〈ふぅ〉


 あらかた片付いたかな。


「すごい」

〈ふ、まあな〉

「あとは、あの一体だけ〉

〈ん? まだ残ってたのか〉


 まあ、糸をプッツンしてやりゃ一発だ。

 ……どこにいる?


「あそこ」


 ロロコが指差す先を見る……。


〈ぎゃああああああああ!?〉



 線路の方へせり出している右側の壁。


 そこを、象くらいはあるんじゃないかというサイズの蜘蛛が走っていた。

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