79 バリガンガルドの城主(いた!)

 どうも、旅行中のリビングアーマーの俺です。

 同じ馬車には人犬族のロロコとドワーフのアルメル。


 いやー、しかし久しぶりに穏やかな時間を過ごしてるぜ。

 なにしろここは街道。

 ダンジョンじゃない。

 なのでモンスターとか出ない!

 平和!


 考えてみれば、転生してからずっと逃げたり戦ったりしてばかりだったからな。


 こんな、なんでもない日々が、すごく貴重に感じられる。


 まあ、この世界はそもそも戦乱が多いみたいだ。

 ロロコだってずっとひどい生活を強いられていた。

 そう考えれば、実際にすごく貴重な時間ではあるんだろう。


 そんなことをぼんやり考えながらガタゴトガタゴト馬車に揺られてる。


 ゴトン!


 おん?

 馬車が急に止まったけど、まだ宿屋じゃないよね?

 休憩するような場所でもない。


 どうしたんだろう。

 と思っていると、御者が言ってきた。


「貴族様の馬車でさぁ」


 窓から覗き込んでみると、たしかにこっちの数十倍高そうな馬車が近づいてきてる。


 この世界、いばってる上流階級が多いみたい。

 なので庶民はけっこう怯えつつ暮らしてる。

 ロロコたち人犬族を支配してたバカ領主みたいなのが他にもいるんだろうな……。


 まあ、あの馬車の貴族がそうとは限らないけどさ。


 豪華な馬車は俺たちの馬車の横を悠々と通り過ぎる……。

 と思ったら、なぜか停止した。


 窓が開いて、中から男が顔を出す。


 なんていうか、すごくダメな貴族っぽい顔。

 ひょろっとしてて、情けなさそうで、でも性格が悪そう。

 クネクネと曲がった妙に長い口髭が壊滅的に似合ってない。


「お前たち、どこに向かっている?」


 その男が御者に問う。


「へえ、フリエルノーラ国へ、お客様をお届けする途中でございます」


「やはりか。今、あの国は危険かもしれぬぞ」


 え、なになに。

 聞き捨てならないこと言い出したぞ。


「昨日、ドラゴンの襲撃があって王宮が壊滅したそうだ。私がかの国に派遣していた使者もそのドラゴンの犠牲になったようでな。私も遅れて王宮に赴く予定だったが、大事をとって引き返してきたところだ」


〈そ、そのドラゴン、どうなったかわかりませんか〉


「む?」


 あ、やべ。

 思わず顔を出してしまった。

 ここはアルメルにでも任せるべきだったな。


 けど、貴族様は気にした様子もなく答えてくれた。


「知らぬ。だが、どこぞへ飛び去ったのではないか? まだ暴れているという話は聞いておらぬ」


〈そうですか……感謝いたします〉


「ふむ、なんの用事か知らぬが、そなたらも気をつけるがよい」


 そう言うと、貴族様は引っ込んだ。

 豪華な馬車はゆるゆると去っていった。


〈いやー、親切な貴族もいるもんだね〉


 ふたたびガタゴトされながら俺は言う。

 あんな貴族ばかりなら、ロロコたちだってもっと住みやすい世の中だろうに。


 と思ったらアルメルが首を振ってきた。


「いえ、あの方は気まぐれなだけですよ。いつでも、誰にもであんな風に優しく接されるわけではありません」


「アルメル、あの人知ってるの?」


 ロロコの問いにアルメルは頷く。


「あれはバリガンガルドの城主、ガレンシア公です」


 ん?

 おお!

 俺がラッカムさんと城に乗り込んだときいなかった人か!


 こんなところにいたのかよ!


 アルメルが説明してくれる。

 彼はバリガンガルドの城主であり、ガレンシア公国を領有する公爵でもある。

 ガレンシア公国は実質、ヴォルフォニア帝国の属領みたいな状況にある。

 一方で、ガレンシア公国はフリエルノーラ国を保護国として支配している。


 や、ややこしいな……。


「クラクラさんは、フリエルノーラ国の自治権獲得のために、冒険者資格を取りにこられたんでしょうね」


 とアルメル。


 そういや、冒険者が十人いる集団は自治権をもらえるって話だっけ。

 そうか、それで王女のクラクラがわざわざ冒険者になりにきてたのか。


 ってことはエルフたちは望んでガレンシア公国の保護国になってるわけじゃないのか?


「たぶん、違うでしょうね」


 アルメルは首を横に振る。


「フリエルノーラ国からは純度の高い魔鉱石が採掘されますから、ガレンシア公はそれを目当てにしているんだと思います」


 また魔鉱石か……。


 ああもう。

 さっきの貴族様があのバカ領主と同じに思えてきた。

 親切だなんて褒めて損したわ!

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