80 到着、エルフの国!

 馬車の車窓から。

 こんにちは、リビングアーマーの俺です。


 人犬族のロロコ、ドワーフ嬢のアルメルと一緒にエルフの国にやってきました。


 ……というわけで到着!


 フリエルノーラ国に着いたぞ!


 今回は特にトラブルもなく、ダンジョンに迷い込んだりもしなかった。

 よかったよかった。


 御者さんに代金を支払うと、馬車はそそくさと引き返していった。

 ドラゴンの襲撃があったって話を聞いて怖がってたからな……。


 さて、俺たちは逃げるわけにはいかない。

 むしろそのドラゴンが目的だしね。


 木でできた城壁のところまで行って見張りの兵士に声をかける。


〈あのー〉


「何用だ」


〈ええと、俺たちクラクラの知り合いで〉


「クラクラ? 誰だそれは」


 ああ、えっと……クラクラの本名ってなんだっけ。


「クララ・クラリッサ・リーゼナッハ・フリエルノーラ第三王女」


 そうそう、それそれ。

 ってロロコ、普通に名前憶えてるのかよ。

 憶えられないからあだ名つけたわけじゃなかったのか……。


「ひ、姫様の? ではあのドラゴンに関してなにか知っているのか!」


〈は、はい、そうです! 俺たちそのドラゴンを追いかけてきたんです〉


 敵ってわけじゃないですよ!

 だから槍をこっちに向けないで!


◆◇◆◇◆


 俺たちはフリエルノーラ国の王城に通された。


「まさかこんな簡単に通されるとは思いませんでしたね」


 とアルメル。


 たしかに。

 俺たちが王国に侵入するつもりで嘘をついていたらどうするんだろう。

 まあ、そんなことはないけどさ。


 そういやクラクラもけっこう信じやすい性格だったよな。


 王城には、王様がいた。

 

 それに、医者みたいな賢者みたいな雰囲気のエルフ。

 彼はフィローと名乗った。


 それと普通の人間が何人かいた。


〈あ!〉

 その中の二人を見て、俺は思わず声を上げてしまった。


 盗賊さん! 盗賊さんじゃないか!


 懐かしいなー。

 転生して最初に目覚めた館。

 あそこで、俺が取り憑いていた鎧を組み立ててくれた盗賊さんである。


 なんでこんなところに……?


「おい、知り合いか?」

「いえ……」

「知らねえですよ」


 リーダーらしい男に問われて、首を振る二人。


 そりゃそうか。

 今の俺、あのときと全然違う鎧だしな。


〈すみません、人違いでした。知り合いに似ていたもので〉


 俺はごまかした。

 今ここで正体を明かしてもややしいことになりそうだし。


「よくぞ参られた。クララの知り合いと伺ったが?」


 とエルフの王様が話しかけてきた。

 つまりこの人はクラクラの父親ってことか。


 俺たちはクラクラと出会ってからの簡単な経緯を説明した。


 俺とロロコとクラクラでバリガンガルドの街を目指したこと。

 街の冒険者ギルドで冒険者登録をしたこと。

 直後、ドラゴンが目覚めて大騒ぎになってしまったこと。


 ドラゴンがクラクラを、ライレンシアと呼んで、さらっていってしまったこと。

 俺たちはそれを追いかけてここまできたこと。


「なるほど、そうであったか……」


 王様はしみじみとした様子で呟くと、頭を下げてきた。


「我が娘をお助けくださりありがとうございます」


〈い、いえ、そんな。俺たちも助かりましたし〉

「クラクラは仲間。当然のこと」


 俺とロロコは慌ててそう答える。


「それで、ここではなにがあったのですか?」


 とアルメルが話を進める。

 今度は王様が説明する。


 保護国管理官のギルバートが王城を訪れていたこと。

 そこへドラゴンが飛んできて、ギルバートを吹っ飛ばしてしまったこと。

 それを受けて、訪問予定だったガレンシア公は引き返してしまったこと。


 そのガレンシア公と、俺たちは途中ですれ違ったんだな。


 王様は言う。


「交渉は中断しておりますが、問題は解決しておりません。管理官殿の説得ができなければ、この国が自治権を得ることは叶いません。それにクラクラもさらわれてしまい……」


 自治権を得るには冒険者が十人必要。

 そしてクラクラがその十人目だったわけだ。


 しかし、そんな王様としての言葉の裏には、父親の感情が感じられた。

 公の場だから口にしないだけで。

 この人、クラクラのことが心配でたまらない様子だ。


 うーん。

 俺たちがクラクラを助けに行く予定は変わらないとして。

 この国とガレンシア公国の間の問題はどうしようもないのかなぁ。


 俺たち、交渉とか無理だし。


〈…………〉


 と俺は盗賊さんたちを見るが、リーダーが面倒くさそうに首を横に振った。


「俺たちも無理だぜ。盗賊が国同士の交渉に口出せるわけねえだろ」


 だよねえ……。


 どうしたもんか。


「そちらはわたくしどもにお任せいただけますか」


 ん?

 どこかで聞いたことのある声だ。


 見ると、玉座の間の扉から、メガネ美人が入ってくるところだった。


 クーネアさん!

 どうしてここに!?

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