186 冒険書とアルメル・Ⅱ

 どうもリビングアーマー?の俺です。


 いや、リビングアーマーじゃねえよな。

 だって今の俺、冒険書だもん。


「え、リビタンさん? ど、どどど、どういうことですか?」


 とアルメルがめっちゃ混乱してるけどそれは俺が聞きたい。


 冒険書はいつも、鎧の内側にバンドで留めていた。

 バンドは本来、鎧パーツ同士を留めたりするやつなんだけどな。

 ほら、リビングアーマーの場合、それ必要ないからさ。

 むしろ、止めてないほうが、いざというときバラバラになれる。


 まあ、今はそのせいで全身バラバラになってしまったわけだが……。


 とにかく、その冒険書が、バンドが外れて飛び出しちゃったんだろう。


 それはわかる。

 わからんのは……。


 なんでその冒険書に俺の意識が宿ってるのかってことだ。


「うーん、意味がわかりませんね」


 と唸るアルメル。


〈冒険書に意思が宿ったなんて例はないのか?〉


「聞いたことがないですね。そもそも、普通に考えてありえないでしょう。長い間触れてたら意思が宿るっていうなら、リビタンさんはこの塔や大陸にも乗り移れるってことになります」


 たしかになぁ。

 俺が意識を宿せるのはあくまで鎧のパーツだけ。

 リビングアーマーだもんな。


「ん……でも、もしかしたら……え、そういうこと……?」


〈なんだ、なんか思いついたのか――っていうかアルメル。なんか遠くにいってないか? だんだん声が小さくなってってるみたいなんだけど〉


「あ、すみません。考え事をしてたら……」


 とアルメルの声が戻ってくる。


「というかリビタンさん。自分で動けないんですか?」



〈動けないしなにも見えてない〉


 音が聞こえるのと感触があるだけだ。


「それ、自分がどのパーツなのかわからなかったからじゃないですか? 今は冒険書だってわかったんですから、形をイメージすれば、動いたり、視覚を確保したりできるんじゃないでしょうか」


 なるほど、言われてみれば。

 そもそも、鎧がパーツで動いたりものを見たりするのだって不自然なんだ。

 不自然さで言えば、本だって大して変わらない。


〈よし……〉


 冒険書はこんな形で……。

 ページをめくって。

 鳥が羽ばたくみたいなイメージで……。


 ――ばさばさばさ!


 できた!


 宙に浮き上がった感覚があった。


 となれば、こっちに目があるようなイメージで……。


 やった!


 見える!

 見えるぞ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る