21 激戦! 巨大コウモリ集団!

 リビングアーマーの俺と犬耳っ娘のロロコは、ガラスの針の森の中を逃げ回っていた。


 ――キシャア!

〈のわっ!〉

 ――ギャアォ!

〈ぬわっ!〉


 相手は、羽に鋭い爪を何本も持つ巨大コウモリ――プテラマウス。

 基本的に、針の間にひそんでれば大丈夫。

 けど、ときどき長い爪が届きそうになるので気が抜けない。

 せめてもの救いは、コウモリたちがガラスの針を壊したりしないってことか。


 上から見るとまさに針の山という感じだった、コウモリの巣の底。

 けど、実際底に着いてみると、針と針の間はけっこう隙間があった。

 狭い路地裏を歩くみたいな感じで移動することができる程度には。


 しかし、ずっとこうして逃げ回っててもしょうがないよな。

 コウモリのやつらがあきらめてくれるとも思えない。


 なにしろコウモリたちは数が多い。

 はるか上の天井に、びっしりと群がってたわけだし。

 

 かといって、どうすりゃいいんだ。


〈なあ、なんか、あいつらに攻撃できる方法ないかな〉

「むずかしい」


 ロロコは、あいかわらず落ち着いてるなぁ。


「魔法抵抗力が高いのは羽だけだから、羽をなんとかすれば魔法は防がれない」

〈おお、そうなのか!〉

「羽は物理防御力は低めだから、武器とかを当てられれば破れる」

〈おお、なるほどなるほど!〉

「羽をなんとかする方法、ある?」

〈…………ないな〉


 そもそもやつらの爪をよけるので精一杯だし。

 長剣とか槍とかいった武器があればいいんだけど。

 ……ん?


〈そういや、ここ、コウモリたちが獲物をおびき寄せて落とす場所なんだよな〉

「そう」

〈じゃあ、昔落とされた冒険者の武器とか、どこかにないかな?〉


 それがあれば、攻撃に使えるかもしれない。


「たぶん、ない」

〈え、なんで?〉

「プテラマウスは獲物を食べた後、残った部分で卵を産む場所を作る」

〈そうなのか……〉


 つまり、武器だの鎧だのは格好の材料ってわけだ。

 丈夫だしな。

 くそっ。

 モンスターのくせにエコなことしやがって!


 ――ん?

 なんか上から降ってくるぞ――。


〈うおわああ!?〉


 ガシャアアアアン!


 落下して、ガラスの針に引っかかる。

 それは、鎧だった。


〈あの男の、か?〉


 そう。

 俺とロロコをおとりにしようとして、逆にコウモリに殺されてしまった男たち。

 あいつらが着てた鎧だ。

 小さい板を何枚も組み合わせた鱗状の作りが独特なので、間違いない。


〈なんで落ちてきたんだ?〉

「たぶん、上で餌を取り合いしてる。食べない部分はあとまわし」

〈なるほど……〉


 俺たちの上で、そんな光景が繰り広げられてるのか……。

 グロい……。


 とはいえ、落ちてきたのは鎧だけだ。

 うまい具合に外れたのかな。


〈……これ、使えないかな〉

「なにに?」

〈いや、俺の身体のパーツに〉


 だいぶスルーしてたけど、俺の身体、いまだにSD戦士状態だからね。

 胴パーツがないせいで、ロロコより身長が低いくらい。

 正直心もとない。

 普通のサイズになれば、素手でコウモリを殴ったりできるかも。


 そう言うと、ロロコはちょっと目を大きくした。

 お、ちょっと驚いたのかな?

 だんだん、彼女の表情が読めるようになってきたな。


「別の鎧を身体にする? そんなことできるの」

〈おう、できるできる〉

「ふしぎ」


 まあ不思議だわな。

 人間なら「胴がなくなったから他の人のもらおう」とかやるようなもんだもんな。

 ありえないありえない。


「じゃあ、とってあげる」


 適応はやっ!?

 いや、あまりびっくりしないでくれるのは助かるけどね?


〈待って待って! 危ないって〉


 鎧はガラスの針のてっぺんに引っかかってる。

 あれを取るには針をよじ登らなきゃならない。

 その間は無防備。

 コウモリたちに狙われ放題だ。


「登る? そんなことはしないよ」

〈え?〉



「ファイア!」



 なるほど!


 炎魔法の一撃。

 ガラスの針は根元だけ溶けてクニャリと曲がる。

 鎧が引っかかった頂点部分が俺たちの足元に落ちてきた。


 やった!

 胴パーツ、ゲットだぜ!


 コウモリたちがぎゃあぎゃあ騒いでる。

 巣の材料を取られて怒ってるのか。

 あるいは餌場を壊されて怒ってるのか。


 知らん!

 ここに俺らを連れてきたのはお前らだからな!

 俺らだって食われたくないんだよ!


 よっ。

 と上半身を浮かせて、鱗状の鎧を置いてみる。


 よいしょ。


 お、いい感じ――。


 ――ゴワシャン!


〈ぬうわぁ!?〉


 いきなり鱗状鎧が潰れてしまった。

 な、なんで!?


 俺はひっくり返った上半身を下半身に戻してから、地面に落ちた鱗状鎧を見る。


 あー。

 こりゃダメだわ。

 鱗同士をつなぐ針金みたいなパーツが所々壊れてしまってる。

 コウモリの爪でやられたか。

 あるいは落ちたとき、ガラスの針で壊れたか。


 なんにしろ、これは修理しないと使えないな。

 せっかく俺のパーツになると思ったのに。


 これじゃ、きっと動きもしない――。


 ――くね。


 ん?

 今、この鱗状鎧、動かなかった?


 ――くねくね。


 間違いない。

 こいつ、生意気にも俺の胴になってる。

 俺の意識に合わせてちゃんと動くぞ。


 えーでも、それかえって困るんだけど。

 使えないのに、身体の一部気取りとかどうなの?

 いや、自分の身体に文句言うのもアレだけどさ。


「なに遊んでる?」

〈いや、遊んでるわけじゃないよ!?〉


 鎧を動かしてて、そう見えたかもしれないけど。


 ――ギシャアアアアア!

〈ぬぉ!〉


 コウモリたちが攻撃を激しくしてきた。

 なんかさっきより数も増えてね?


「たぶん、いままでは幼いプテラマウスの狩りの訓練」

〈え?〉

「ここから、本気出す」


 本気出すのはコウモリどもってことだよね!?


 勘弁して!

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