EX1 ある街の自警団長の話

「ヴェルターネックの森の館にリビング・アーマーが出た?」


 自警団の団長であるラッカムは、部下の報告にまゆをひそめた。


 ほおに傷跡を持ち、右目に眼帯をした、五十がらみの男。

 昔はどこかの国で傭兵をしていたと噂されている。

 が、彼に過去を尋ねる者は、この街にはいない。

 そんなものを知らなくても、彼の実力や人格を、街の人々は信頼していた。


「まあ、なんかの間違いかもしんないですがね」


 報告に来た部下は、苦笑まじりに言った。


「この前とっ捕まえた盗賊たちがいたでしょ? あいつらが言うんですよ」


 数日前。

 街の商家に空き巣に入ったやつらを、ラッカムたちは捕らえた。


「あいつら魔力も持ってねえのに、冒険者になろうとしてたんですよ」

「で、モンスターを倒すこともできず、盗賊に鞍替えか……」

「ですね」

「多いなぁ、最近、そういう奴らが」

「国があちこちあんだけ荒れてりゃ、仕方がないですよ」


 ラッカムは少しだけ口を閉ざした。

 なにかを思い出しそうになったのを、無理やり押さえ込むように口元に手をやり、


「――んで、なんだって? リビング・アーマー?」

「そうですそうです。しかもあいつら、それがしゃべったなんて言うんですよ」

「はっ」


 ラッカムは苦笑を漏らす。


「バカらしい。霊獣じゃあるまいし、モンスターが口をきくかよ」

「ですよね。リビング・アーマーが霊獣化したなんて聞いたことないですし」

「どうせフルアーマーの騎士を見間違えたとか、そんなとこだろ?」

「まあ、そうだとは思うんですけど……」


 部下は歯切れが悪い。


「んだよ?」

「いえ……その盗賊、自分が鎧を組み立てた直後にしゃべったんだって言うんですよ」

「…………」


 バラバラになっていた鎧を組み立てた。

 その鎧が口をきいた。

 ――というのなら、その盗賊の証言にも一理あるかもしれない。


「だったら、聞き間違いじゃねえのか?」


 ラッカムはそう言いながらも、少し態度を改める。


「そもそもあの辺のモンスターは一掃されてるはずだろ」

「そうなんですよね」


 部下は頷く。


「館の封印もあるから、下のダンジョンのモンスターが出てくるはずもないですし……」

「…………一応領主さまに報告したほうがいいか」

「盗賊のヨタかもしんないですよ?」

「ああ……けど、ちょっと気になる。最近、魔響震も多いだろ?」

「言われてみれば……」

「あとから騒ぎになって、文句言われるのもシャクだしな」


 ラッカムは立ち上がった。


「まあ、一応俺も、その盗賊に話を聞くよ。その上で判断する」

「わかりました」


 ラッカムと部下は詰所を出た。

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