130 お医者様の言うことにゃ
どうも、リビングアーマーの俺です。
やってきましたフィオレンティーナ。
その領主であるラフィオン・メディシアの屋敷。
そのびっくりするくらい豪華な部屋にいるのは俺のほかに――
人犬族のロロコ。
エルフにクラクラ。
ドワーフ嬢のアルメル。
ドラゴン娘のドグラ。
魔力過活性症で寝込んでいるドワーフ嬢のラファ。
それと館の主のラフィオンさん。
そしてラフィオンさんが呼んでくれたお医者さんである。
「うーむ……」
診察を終えたお医者さんは最後にそう唸った。
ちょっとちょっと。
なんでそんな不穏な声出すのさ。
〈どうなんですか?〉
俺が問うと、お医者さんは難しい顔で答える。
「とりあえず、魔力の流れを弱める薬草を煎じたものを飲ませました。これを定期的に飲ませれば、症状の進行は抑えられるでしょう。ただ、治すためには、この義手を外す必要があります」
やっぱりそうなのか。
〈外すための手術はできるんですよね?〉
「技術はあります。ただ……」
ただ……なんだよ?
「このままでは手術はできません。義手の材料であるオリハルコンが身体の奥まで伸びていて、心臓近くに達しているんです。長年使い続けていたせいでしょう。この腕も、彼女の身体の一部として機能している状態ですから、無理に途中で切断しても、その後の生命活動に影響が出る可能性が高い」
つまり、どういうことだ?
「義手を根元から外すのは無理。といって途中で切断してもラファが死ぬかもしれない……ことですか」
さすがアルメル。
わかりやすい。
……ってそれじゃダメじゃん!
どうすりゃいいんだよ!
「方法はあります」
とお医者さん。
なんだ早く言ってくれよぉ。
「純度の高い魔鉱石を用意し、魔力循環の役割をオリハルコンから魔鉱石に移すんです。その上で手術をして、終わった後は、徐々に魔鉱石の量を減らしていき、彼女の身体だけで魔力循環を行える状態にします」
〈それ、成功例は?〉
「心配はありません。昔は難しい手術でしたが、最近では失敗例は聞きません。私も何度か手掛けております」
よかった。
それなら安心だ……。
「ただ……」
おいおい、まだなんかあるの?
「普通この手術は、モンスターに怪我を負わされ魔力循環が乱れた患者や、魔鉱石を含んだ武器の破片が体内に入ってしまった患者に対して行われる手術です。ですが、ここまで魔力の過活性の度合いが大きいとなると、かなり高純度の高い魔鉱石が大量に必要になってしまいます」
「どのくらい入り用になりますかな?」
ラフィオンさんが言ってくる。
これは……代わりに用意してくれそうな感じ?
期待しちゃっていい?
「そうですな……ざっと、こんなところでしょう」
お医者さんは紙に文字を書きつけてラフィオンさんに見せる。
それを見たラフィオンさんが唸る。
「これは……ううむ……」
え、ちょ、やめてよ。
領主で大商人のラフィオンさんが口籠るってどんだけだよ。
「ちょっと見せていただいてもいいですか?」
アルメルが紙を借りる。
「えええ……」
いやだからやめろって。
〈どれくらい必要なんだ?〉
「そうですね……普通の鉱山で十年に一度出るか出ないかのレベルの純度のものを、百回分ってところですかね」
〈はああああ!?〉
つまりそれ、普通に採掘したら千年かかるってことじゃん!
「いえ、たしか今大陸に魔鉱石の鉱山は二十ヶ所ありますので……」
それでも五十年じゃん!
〈ちなみにラファはどのくらい保つんですか?〉
「このままですと……二週間といったところです」
はあああああ!?
ぜんっぜん間に合わないじゃん!
どうすんのどうすんの!?
「お待ちください」
と、混乱しているところにラフィオンさんが言ってくる。
「最高純度の魔鉱石に関してなら、心当たりが二つほどあります」
マジで!?
早く教えて!
「一つは天空塔ダンジョンの最上階にあると言われている輝光石。これが最高純度の魔鉱石ではないかと考えられます」
天空塔ダンジョン。
世界四大ダンジョンの一つだったな、たしか。
「ただ、こちらは攻略が不可能と言われてますので、難しいかと思います」
そうなのか……。
じゃあもう一つは?
「はい、もう一つは、チェインハルト商会が郊外に所有している実験施設で、そのレベルの魔鉱石が使われているのではないかと」
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