38 とうとう頭だけになりました……
どうも、リビングアーマーです。
……って名乗っていいのかな、これ?
いまの俺、兜パーツしか残ってないからね。
それでふよふよ宙に浮いてる状態。
こわっ!
自分で言うのもなんだけど、怖いだろこれは!
民家の近くにいたら、まちがいなく怪談になるぞ。
で、そんな俺の下で寝ている犬耳っ娘が一人。
ロロコだ。
いまは夜。
場所は、でっかい木に開いた大きな穴のなかだ。
木のウロ、とか言うのかな、こういうの。
俺はこの子に助けられた。
これまでも色々世話になってはきた。
この世界の知識も教えてもらった。
けど、今回は本気でヤバかった。
大量の毒ガエル集団。
奴らが作った毒の沼。
そこでの戦いで、俺は危うくパーツ全部を溶かされるところだった。
それでも、まあ、仕方ないとは思ったんだ。
転生して、人生二度目。
もともと、ボーナストラックみたいなもんだし。
おまけにリビングアーマーだぜ?
さまようよろいの代わりに、この犬耳っ娘が助かるなら、まあ悪くねえじゃん。
そう思った。
けど、ロロコは逃げなかった。
どころか、俺を助けるため、カエルたちに立ち向かった。
毒の沼に踏み込んで。
カエルの毒液を浴びて。
それでもひるまず俺を救い出してくれた。
そのとき、なんていうか、彼女は暴走した。
バーサーカーみたいな感じ?
理性もなくすくらいに凶暴化して暴れまわり、カエルをぶちのめした。
そして、兜だけになった俺を抱えて、毒の沼を離脱したのだ。
んで、いまいる木の前に来たあたりで、ばったり倒れた。
ビビったけど、どうやら力尽きて眠ってしまったみたいだった。
俺は兜でゴロゴロ地面を転がりながら、なんとかロロコをここに入れたってわけだ。
〈…………〉
木のウロから顔を出して、外を見る。
あたりに危険な動物なんかはいないようだ。
静かな夜だ。
空には月が昇っている。
いや、この世界でも月って呼ぶのかは知らんけど。
それっぽい星があるってことね。
「ん……」
お、目が覚めたらしいな。
――ふよふよふよふよ。
俺は空中飛行してウロのなかに戻る。
そうそう。
兜だけだとけっこう高くまで飛べるんだよな。
鎧本体だと1メートルくらいしか受けなかったのにな。
多分、人間の形に近いと先入観が邪魔をするんだと思う。
鎧が浮かんでる時点で、十分異常なんだけどな。
ロロコは、宙に浮いてる俺を見て驚きもしない。
「あ、リビたん」
〈お前、いつの間に俺にそんな名前つけてたんだよ〉
いや、いまはそれはどうでもいいわ。
〈怪我は大丈夫か?〉
「ん。大したことない。もう治りかけてる」
〈はぁ!? いやいや、嘘だろ?〉
……ほんとだ!
カエルの毒液を浴びた腕。
それに毒の沼に突っ込んだ足。
どっちもほとんど傷は消えかけてる。
「人犬族は頑丈。えっへん」
そんな胸張られても……。
いや、すげえとは思うけどね。
〈お前な……なんで俺なんか助けたんだよ。無事だったからいいようなものの〉
「うん。リビたんが無事でよかった」
〈いや、そうじゃなくてだな……〉
はー……。
まあいいか。
俺だって立場が逆だったら同じようにしてたかもしれないし。
リビングアーマーと人犬族、どっちが生き残るべき――とか。
そういう話じゃないんだよな。
なりゆきとはいえ、ここまで一緒に行動してきた仲だ。
そうそう見捨てるなんて選択肢はねえよ。
「ところで」
〈ん?〉
「リビたん、ステータスはどうなってるの?」
〈おお、そうだな。チェックしてなかった〉
忘れてた。
実は、ロロコは俺の荷物も確保してくれてた。
偶然、カエルの上に落ちてたから回収できたらしい。
冒険書。
それに銅貨30枚が入ってる布袋。
ダンゴムシ装甲は持ちきれなかったみたいだ。
まあ仕方ない。
便利だったけどな。
〈そういや、この銅貨ってどのくらいの価値があるんだ?〉
「わからない」
〈へ?〉
「お金は、使ったことないから」
〈そうか……〉
それも領主の人犬族に対する扱いってやつか。
もう腹も立たねえぜ。
呆れるだけだ。
さて、ステータスステータス……。
って、俺、めくれねえじゃん!
〈ロロコ、頼む〉
「ん」
ロロコが開いてくれた冒険書を見る。
今の俺のステータスは……
『リビングアーマー LV.20 名前:なし
HP:65/143(576/865)
MP:12/52(316/437)
物理攻撃力:14(125)
物理防御力:13(143)
魔法攻撃力:3(3)
魔法抵抗力:3(3)
スキル:霊体感覚+1、霊体操作+2、霊体転移
称号:駆け出し冒険者、初級冒険者、魔物討伐者
称号特典:魔力習得率アップLV.1、魔力変換率アップLV.1、恐怖耐性LV.3』
……よっわ!
俺超弱くなってるね!
まあ兜だけだから当然か。
――と思ったけど、おかしくないかね?
俺いま、そんなに疲れてる感じしないんだよね。
なのに、HPは最大HPを大きく下回ってる。
MPも同じだ。
これって、鎧パーツが欠けてるからこう表示されてんだと思ってたんだけど。
なんか違うっぽいよね。
だって、それなら兜だけになっても、最大値は前より減らないはずだもん。
けど、実際は、パーツが減ったぶん最大値は低下してる。
現在値はいつもそれより低い。
どういうことだろ?
ロロコに聞いてみる。
「わからない」
あっさりだな。
「冒険書は人間向けだから。リビングアーマーの魔力を読み取るのが苦手なのかも」
なるほど。
確かに、本体は霊体だし、手に入れた鎧は自分の身体にしちゃうし。
冒険書も混乱してるのかもしれない。
ってことは、このステータス表記、あまりあてにならないってことか?
「そんなことはない、と思う」
〈そうなのか?〉
「持ち主として登録はできてるし。少なくとも現在値は信用できる、と思う」
最後に、思う、がつくのがとっても不安だが……。
まあいいか。
どうせ、今のところ敵の数値だって倒さなくちゃわからないような状況だしな。
参考程度にしておくことにしようか。
ところで、なんか新しいスキルが増えてるな。
『霊体転移』
なんだろな、これは。
ロロコも首をかしげてる。
文字通りなら、霊体を転移させるスキルなんだけど。
それなら、いままで似たようなことやってたしなぁ。
途中で拾ったパーツとか、鱗状鎧とかを自分の身体にするやつ。
霊体が乗り移ってるわけだから。
それも転移っちゃ転移だろ。
それとも、なんか違いがあるんだろうか。
こういうの、いったい誰にききゃいいんだろうね。
魔法なら別の魔法使いに聞けるだろうし。
剣士なら剣士、盗賊なら盗賊――とそれぞれ先輩を作れるだろう。
でも、リビングアーマーの先輩って……。
しかも普通はしゃべらないモンスターらしいしなぁ。
まあ、そんなこと言っても仕方ないんだけど。
〈――ところで、ロロコの仲間と合流する予定の場所はわかるのか?〉
「うん。匂いで方角が分かるから」
なるほど。
便利だな。
〈それじゃ、もう一眠りしておくか〉
「うん」
頷くと、ロロコは横になり、すぐに寝てしまった。
まだ疲れてるんだろうな。
俺も、ロロコの横に降りる。
あれ、そういや俺、いままで寝たことなかったな……。
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