32 そ・と・だーーーーーー!

 俺はー!

 自由だーーーーーーーー!!!!


 外!

 外!

 外!

 ダンジョンの外ですよー!


 照りつける太陽!

 吹き抜ける風!

 ざわめく草木!


 これぞ大自然!


 思えば、リビングアーマーとして転生して、館からダンジョンに転げ落ちた。

 この世界の空を見るのは、これが初めてだ。

 うう、長かったなぁ……。


「どうしたの。泣いてる?」

〈心の汗だっ!〉


 おかしいな。

 どうしてわかるんだ。

 涙なんか流れないはずなのにな。


 しかし、意外と普通の風景だな。

 ザ・森って感じ。


 異様に薄暗いとか。

 空をドラゴンが飛んでるとか。

 見たことない植物ばっかりとか。

 そういうことはない。


〈ここはどの辺なんだ?〉

「ヴェルターネックの森のどこか。フェルスナード公国からは出てないと思う」


 なるほど、わからん。


〈フェルスナード公国ってのは、ロロコが住んでる国なのか〉


 住んでるというか、住んでたというか。


「そう。その公国の一部が、領主さまの土地」

〈ややこしいな〉

「そう?」


 えーと、ロロコたち人犬族の扱いがひどいのはその領主なんだよな。

 フェルスナード公国とやらはそれには関わってないのか。


「無関係」


 ロロコは頷く。


「領主が税を納めて、公国が守る。それだけ。税の集め方に口を出したりはしない」


 なるほど、今度はわかった。


「フェルスナード公国の北にヴェルターネックの森が広がっている」

〈ふむふむ〉

「森のさらに北はヴォルフォニア帝国。みんな、そこを目指してる」

〈つまり、森越えをしようってわけか〉

「そう」


 森がその二つの国の国境線代わりって感じか。


〈森にモンスターがいたりしないのか?〉

「大丈夫」


 ロロコは首をふる。


「モンスターはダンジョンにしかいない。ここはダンジョンじゃない」


 おお?

 そういえば、前もちらっとそんな話ししたっけな。


「ヴェルターネックの森の地下には、さっきの洞窟ダンジョンが広がってる」

〈はー。じゃあけっこう広いダンジョンなんだな?〉

「広い。世界4大ダンジョンの一つ。フェルスナード公国と同じくらいの面積」

〈マジかよ!?〉


 国ひとつ分とか……。

 俺、しょっぱなからそんなところをうろついてたのかよ。

 よく出てこられたな。


〈そもそも、ダンジョンとそうじゃない場所の違いってなんなんだ?〉

「モンスターがいるかいないか」


 えーと……?


 ここにモンスターがいないのは、ここがダンジョンじゃないからで?

 ダンジョンの定義はモンスターがいる場所……?


〈なんの説明にもなってねえじゃん!〉

「うん」


 ロロコはあっさり頷いた。


「ダンジョンのことはまだよく解明されてない」

〈そうなのか〉

「そう。どうやってできたのか、なぜモンスターがいるのか、わからないことだらけ」

〈うーん〉


 ってことは、だ。

 こう考えるべきか。

 この世界には、あちこちに普通の動物とは違うモンスターが生息する場所がある。

 その場所のことをダンジョンと呼んでる、と。


「そうだね」


 と言った後、ロロコは不思議そうな顔で、


「『この世界』?」


 あー……。

 そういや俺が転生してリビングアーマーになったことは話してなかったっけ。


 ここまでずっと、それどころじゃない感じだったしな。


 まあ、この子になら話してもいいかって気分ではある。

 話しても信じてもらえないかもしれないし。

 そもそも理解もされないかもしれないけどさ。


「俺――実は、元はリビングアーマーじゃないんだ」


 そう告げる。


 するとロロコは、頷いて、


「――知ってた」


〈……え?〉


「だって――喋るリビングアーマーとか、おかしい」

〈ああ……そういう意味ね〉


 そうだな。

 最初に俺を組み立てた盗賊も。

 ロロコを追っていた男たちも。

 俺がしゃべるのを聞いてかなり驚いていた。


 ロロコはあんまり驚いてなかったな。


〈実はな……俺は、前世は別の世界の人間だったんだ〉

「ゼンセ?」


 ロロコは首をかしげる。


 ああ……そこから説明しなきゃいけないのか。


 ただ、その反応からわかることもある。


 この世界では、別の世界からの転生者みたいのは一般的じゃないってこと。

 少なくとも、庶民が普通に知ってるレベルでは存在しないんだろう。


〈うーんとな……〉


 前世って概念をどう説明すりゃいいんだ。


 そもそも、この世界の死生観っていうのか?

 そういうのどうなってんの?


 生まれる前はどうなってるとか。

 死んだら天国や地獄に行くのかとか。

 魂とか。

 どういうイメージを持ってるんだろう。


 うーん…………。


 ――ごがぁ!


〈うひゃあ!?〉


 なんか出た!


〈カエル!?〉


 でかいな。

 1メートルくらいあるんじゃないか?


 けど、ここにはモンスターが出ないって話だし。

 これでも普通の動物なんだろう。

 だったら、ロロコの魔法で倒せるか。


「こいつは、マギ・フロッグ」

〈え?〉

「魔法を使えるカエル。色からして、こいつは多分、水系魔法を使う」


 確かに、青い色だな……。


〈おい、ここにはモンスターは出ないんじゃなかったのか?〉

「まったく出ないわけじゃない」


 おいおい、あとからそういうのやめてくれよっ。


 と思ったけど、前に言ってったけ。

 魔響震の影響で、ときどきモンスターがダンジョンの外に出てくるって。


 仕方ねえ……。

 戦うしかねえか。


〈って、なんだよロロコ。引っ張るなよ〉

「逃げる。こいつは危険」

〈え?〉


 ――ベシャ!


 と、カエルがなんか吐いた!


 つば!?

 きたねえ!


 ――じゅうううう!


 うわあああ!?

 つばが当たった草が、煙を吹いて溶けたぞ!


 酸?

 毒?


 どっちにしろやべえ!


 これは逃げるに限るわ!

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