52 この世界にはエルフがいる!

 トカゲウオの群れを撃退した俺(右腕だけのリビングアーマー)とロロコ。


 とりあえず休憩だ、休憩!


 池から少し移動したところに、岩の陰になる場所があったのでそこで休むことにする。

 ここなら、モンスターが現れても、こっちが先に気づけるだろうからな。


 ロロコは、ちゃっかり倒したトカゲウオの肉を確保していた。

 ついでに尻尾を切って、先の細い骨もゲット。


 ナイフで肉を一口大に切り、骨に刺す。 



「ファイア」



 炎魔法を小出しにして、それを炙る。


 トカゲウオの串焼きの完成!


〈うまいか?〉

「……(もぐもぐこくこく)」


 頷くか食べるかどっちかにしろよ。


「……脂ののった魚と、鶏肉のあっさりした舌触りが同居した、不思議な食感」


 なんだそれ、超うまそう。


「たぶん、火を通しすぎないのがコツ」


 焼き鳥みたいだなと思ったけど、タタキみたいな感じでもあるのか?

 くそー。

 こういうときだけは、リビングアーマーの身が悔しいぜ。


 ロロコは、池から組んだ水を飲みながら、トカゲウオ串をどんどん食べていく。


〈そういや、食あたりとか大丈夫なのか?〉


 今更な気もするけど。

 水は生水のままだし。

 モンスターの肉だって、寄生虫とかなんとかあるかもしれない。


「? そんな人間みたいなことはない。腐ってるわけじゃないし」


 お、おう。

 そうなのか。

 すげえな。


 ロロコがいた人犬族の集落は、領主に搾取されてたらしいけど。

 このなんでも食えるってので、生き延びてこられたのかもな……。


 ……さてと。


 ロロコが食事している間に、俺はステータスでも確認しよう。


 激流に飲まれてここまでたどり着いた俺らだが。

 冒険書は不思議と無事だった。

 魔力で守られてるのかね。


 ま、そりゃそうか。

 冒険者が持ち歩くアイテムだもんな。

 それくらいの対策はしてるんだろう。


『リビングアーマー LV.23 名前:なし

 HP:37/129(45/129)

 MP:30/72(21/72)

 物理攻撃力:15(15)

 物理防御力:12(12)

 魔法攻撃力:5(5)

 魔法抵抗力:6(6)

 スキル:霊体感覚+2、霊体操作+4、霊体転移+1、霊体分割

 称号:駆け出し冒険者、初級冒険者、魔物討伐者、生還者、決死者

 称号特典:魔力習得率アップLV.2、魔力変換率アップLV.2、恐怖耐性LV.4、魔力生命力変換LV.1、生命力魔力変換LV.1』


 今回、レベルは上がらなかったかー。

 トカゲウオ、一体一体はそれほど強くないみたいだしな↓


『リザードフィッシュ

 平均HP:256

 平均MP:314

 平均物理攻撃力:135

 平均物理防御力:116

 平均魔法攻撃力:23

 平均魔法抵抗力:16

 解説:トカゲとサカナの中間のような姿のモンスター。縄張り意識が強く、侵入者をしつこく追ってくるが、ある程度仲間が減ると撤退する。』


 だからステータスにはほとんど変化がない――ん?


 称号と称号特典がちゃっかり増えてるな。


『決死者』……って、なんか不穏な響きなんですけど。


 称号特典の方は『生命力魔力変換』。

 一つ上の『魔力生命力変換』の逆バージョンかな?

 生命力を魔力に変換できるってことか。


 じゃあ、この決死者って称号は『死ぬ覚悟でHPをMPに変えた者』みたいな意味?


 いや……俺、いつそんなことしたよ!?


 ここまでだと……。

 水の中でスクリューの真似事して。

 トカゲウオとの戦いで投球マシンの真似事して。


 ……それだけ、だぞ?


「もふぃふぁふぃふぁふぁ(もしかしたら)」

〈落ち着け。のみこんでからでいいから〉


 ロロコは口いっぱいに頬張っていた肉をのみこむ。

 そんなにウマいのかよ……。


「――その鎧が壊れないように、魔力を消費してるのかも」

〈んん?〉


 ……あ、そうか。


 あっちこっちひび割れて、いつバラバラになってもおかしくない腕パーツ。

 今はそこに、俺の本体である霊体が取り付いて、リビングアーマーになってる。

 そのボロボロの鎧を維持するだけで魔力が消費されてるってことか。


 そういや、もともとパーツ同士の接続は魔力で維持してた。

 肩パーツと腕パーツとか、腰パーツと脚パーツとかね。

 今は壊れかけた部品を保たせるのに、同じように魔力を使ってるんだな。


 スクリューや投球マシンの時には、かなり無理がかかったんだろう。

 それでも壊れないように、生命力を魔力に変換して補強してたってわけだ。


 くそ、それじゃホント無理はできないな。


 前に、壊れたパーツは自分の身体だって認識できなくなったし。

 その境界線がどの辺なのかはわからないけど。

 今の状態で、その実験をする勇気はないぞ。


 はー。

 どっかに鎧落ちてないかなー。


 ところで。

 前にステータス見たときはスルーしちゃってたけど。


 名前がいまだに『なし』のままだな。


 ロロコにつけてもらった『リビたん』は採用されないのか。


「名前は、冒険者ギルドで登録しないとつかない」


 あー、そういうシステムなのか。

 どうしよっかな。


 まあ、リビたんでいいか。

 ラッカムさんにも名乗っちゃったし。


〈さて――そろそろ出発するか〉


 ロロコも食事終わったみたいだし。


 っつても、どこに向かえばいいのかは相変わらずわからんな。


 まずは、周辺の様子を探るところから始めるか……。


 ――ゴオオオオオオオ。


 げ。

 この音は。


「また水の音」


 やっぱりか!

 ってことは、また激流に飲まれるのかよー。


 と思ったけど、幸いそんなことにはならなかった。


 ――どおおおおおお!

 ――ばしゃああああ!

 ――どしゃああああ!


 と、その辺の壁のあちこちに空いた穴から水が噴き出してくる。


 どうやら、このあたりの洞窟はときどき水が流れるんだな。

 で、その多くが、この空間に流れ着く、と。


 ここに水が溜まってないのは、地面の裂け目とかから排水されるからだろう。


 それなら、溺れる心配はないな。


 ――ばしゃあああああ!


 ぬぉ!?

 水と一緒に、なんかでかいものが落ちてきた!

 またトカゲウオか!


 俺とロロコは身構えるが、落ちてきたそいつは動かない。

 浅い池に横たわったまま、ぐったりしてる。


「人だ」


 ホントだ。

 十七、八歳くらいの女の人。

 けっこう美人だ。

 金色の髪の隙間からは、尖った耳が覗いてる。


 ……。

 …………!

 尖った耳!?


 エルフだー!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る