15 この世界には獣耳っ娘がいる!

 俺は地底湖のほとりを歩いていた。

 この湖、めっちゃ広いな……。


 どこを目指してるかというと、ほぼ対岸。

 そこに、タイマツの明かりっぽいものが見えたのだ。

 ひょっとしたら、人間がいるかもしれない。


 向こうは向こうで、岸辺を移動してるっぽい。

 少しずつ近づいてきてるので、そのうち会えるだろう。


 問題は、会ったあとだ。

 向こうは果たして、こっちを人間だと思ってくれるだろうか?


 前の盗賊さんたちは、バラバラだった俺を組み立てた。

 バラバラだった鎧がしゃべったから、すぐリビングアーマーだとバレたわけだ。

 今の俺が姿を見せたら、鎧を着てる普通の人間だと勘違いしてくれないだろうか。


〈無理かな……〉


 なにしろいまの俺、SDサイズだし。

 子供と言い張っても無理のある体型だ。


 いやでも、この世界、そういう種族とかがいるかもしれないしな!

 ゴブリンとか。

 いや、ゴブリンは退治される可能性があるな。

 基本モンスター扱いだよなあいつら。

 じゃ、ドワーフで。

 そうだな、ドワーフならいけるかも。


 よし決めた!

 まずは様子を伺う。

 で、交流ができそうなら姿を見せる。

 相手の態度にもよるけど、基本ドワーフのふりをして会話を試みる。

 ――ってことで!


 なんて考えてると、タイマツの明かりもだいぶ近くまできた。

 やべやべ。

 ちょっと隠れて様子を見よう。


 やっぱり人間みたいだな。

 二人いる。

 どちらも鎧を着て、タイマツと反対の手には槍を持っている。

 なんか変わった鎧だな。

 フルアーマーじゃなくて、小さい板を組み合わせた鱗みたいな鎧だ。

 古代ローマが舞台の映画とかであんなの見たことあるぜ。


 なんか話してるな。


「もうあきらめようぜ。見つかるはずねえ」

「けどよ、逃げられたなんてバレたら、領主さまがカンカンだぜ」

「くそっ、余計な手間かけさせやがって。あのクソ犬っころ」


 ふむふむ……。

 いまの会話だけで、だいぶ状況がわかったな。

 二人は『領主さま』とやらの部下かなにかだ。

 で、その領主さまの飼ってる犬が逃げ出して、このダンジョンに潜り込んだ。

 彼らは、そいつを探してこんなところまで来てしまったというわけだ。


 これはチャンスかも。

 その犬を探す手伝いを申し出れば敵意は減らせる。

 探索に成功すれば、領主さまと顔見知りにもなれるかもしれない。

 その領主さまがどんな人かはわからないけど、知り合いを作っておいて損はないはず。


 よし、ちょっと話しかけてみよう!


〈はっはっは、待ちたまえ! 話は聞かせてもらったぞ〉


「ひっ!?」

「な、なんだてめえ!」


 いっけね、おかしなテンショになっちまった。

 人と話すの久しぶりすぎてな。


 マズいぞ。

 二人ともちょっと警戒してる。

 ちょっとトーンダウンしていこう。


〈あ、いえ、これは失礼。通りすがりの旅のものです〉

「旅ぃ? 冒険者か?」

「なんでこんな場所に?」


 え?

 冒険者がいたら変だったの?

 ここ、ダンジョンだよね?


『モンスターを検知しました』

『モンスターの情報を表示します』


 へ?

 不意に、魔法書から出てくるのとよく似た声が聞こえた。

 男の片方がつけている腕輪からだ。


 腕輪には宝石がついている。

 あの宝石、魔法書の背表紙の宝石とよく似てるなー。


 その宝石が光を放つと、男の前になにかを浮かび上がらせた。

 本の立体映像だ。

 すげー。

 え、なにそれなにそれ?


 と、俺が話しかける余裕もなく、


「こいつ、リビングアーマーだ!」


 その立体映像を見た男が叫んだ。

 げ、バレた。


〈いや、あの〉

「ぎゃあああああ!」

「逃げろおおおおおおお!」

〈待って! 待ってって!〉


 俺、悪いリビングアーマーじゃないよ!


 ……あーあ、行っちゃった。


 なんでバレたんだ?

 って、あの腕輪のせい以外には考えられないよな。


 あれ、ひょっとして魔法書代わりなのかな。

 っていうか、あっちが普通のアイテムで、俺の持ってるのが旧式って感じだ。

 出会ったらすぐに、モンスター情報を表示してたし。

 倒さないと追加されない俺の魔法書とはえらい違いだ。

 いーなー。


 それはともかく、困ったな。

 あんなアイテムがあるってことは、冒険者相手には俺の正体はバレバレってわけだ。

 ドワーフのふりも通りすがりの冒険者のふりもできん。


 人と交流したけりゃ、リビングアーマーだとバレる前提で考えなきゃ。


〈ふぅ……〉


 なんかどっと疲れたな。

 身体は鎧だから平気だけど、精神的にね。


 ちょっと休もう。

 よっこらしょ。


 ――もふっ。


 ん?

 なんか手にふさふさした感触が。

 なんだ?


 ――もふもふっ。


 犬耳がありますね。

 ふさふさの毛もありますね。

 え?

 これ、ひょっとして?


 と、俺は座った岩の陰にうずくまっていたそいつを抱え上げた。


「わひゃんっ」


 犬――じゃなかった。

 それは、犬耳と犬しっぽを持った、小さな女の子だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る