100 なめくじには塩

 どうも、リビングアーマーの俺です。

 こっちはゴブリン娘のラファ。

 ちょっと前にいるのは大蛇の皆さん。


 みんなして同じ方向に逃げてます。


 べつに大蛇たちと協定を結んだわけじゃない。

 同じ方にしか逃げられないのだ。


 ――にゅにゅにゅにゅにゅ!


 穴をぴったり埋めてしまうくらいの巨大ナメクジが追ってきてる。


 ナメクジは毒持ち。

 蛇だろうがゴブリンだろうが鎧だろうが溶かしてしまう。

 そりゃ逃げるしかないでしょ。


 ――にゅにゅにゅにゅにゅ!

 ――にゅにゅにゅにゅにゅ!

 ――にゅにゅにゅにゅにゅ!


 ん?

 なんかナメクジの移動音が増えた気がしますね……。


「ビッグ・ポイズンスラッグが三匹に増えた」


 ラファが後ろを振り向いて言ってくる。


 やっぱりかよ!


 ――にゅにゅにゅにゅにゅ!

 ――にゅにゅにゅにゅにゅ!

 ――にゅにゅにゅにゅにゅ!

 ――にゅにゅにゅにゅにゅ!

 ――にゅにゅにゅにゅにゅ!


 いや、どんどん増えてるじゃん!

 なんなんだよ!


「やっぱりその音のせいじゃないかな」


 えー。

 そうなの?


 普段はわざわざ言ってないけどね。

 俺、動くたびにけっこう大きな音がしてる。

 まあ、金属の塊だし。

 複雑な形してるしね。

 しょうがないよね……?


 とにかく今はひたすら逃げるしかない。


 俺たちは大蛇についていく形でひたすら穴を下って、下って、下って……


 ……元の大蛇の群生地に戻ってきてしまった!


 ちくしょう!


〈うわああああ!〉


 しかも勢いがついて穴から飛び出してしまった。

 蛇の群れの上に落ちるかと思ったんだけど、普通に地面に落ちた。

 蛇さんたちどうしたの?


 俺は腕を伸ばしてラファを受け止める。


「ありがとう」

〈ああ……しかし蛇どもはどうしたんだ?〉

「ビッグ・ポイズンスラッグが嫌で逃げてるんじゃないかな」


 ああ、なるほどな。


 俺たちに続いて、巨大ナメクジが穴からぼたぼた落ちてくる。

 そのたびに蛇たちは輪を広げて遠巻きに逃げていく。


 俺たちも押しつぶされなくて済むって話だ……けど。


 ――にゅにゅにゅにゅにゅ!


 ナメクジどもは気持ち悪い音を出しながら俺たちに迫ってくる。

 対処のしようがない状況は変わってない。


 どうする?

 また腕を伸ばして穴に飛び込んでもいいかもしれないけど。

 けっきょくまたべつのナメクジに進路を塞がれるだけだ。


 ナメクジ自体をどうにかする方法を考えないと、先に進めない。


 ――にゅにゅにゅべしゃ!


 うっわ!

 いきなりなにすんの!


 ナメクジが毒液を吐いてきた。

 俺は慌てて身を引く。

 あっぶねー……。


 俺の様子を見て、毒が苦手と察したのか、ナメクジどもはなんか元気になる。


 ――にゅにゅにゅべしゃ!

 ――にゅべしゃべしゃ!

 ――べしゃべしゃべしゃ!


 ちょ、やめ、やめろって! おい!


 俺たちの足元がどんどん毒液まみれになっていく。

 くそ、前門のナメクジ、後門の大蛇。

 本当に逃げ場がなくなってしまった。


「こうなったら……」


 え?

 ラファ、なにか策があるの?


 ラファは服の懐からなんか袋を取り出すと、それを破いて中身をぶちまけた。

 白い粉。


 ――にゅにゅにゅにゅにゅ!?


 ナメクジの一体にそれがかかった。

 とたん、そいつはしおしおと縮んでいった。


 塩!


 そうか、ナメクジは塩に弱い。

 浸透圧で身体の水分が外に出てしまうのだ。


〈なんだ、そんな秘密兵器があるなら早く使ってくれればよかったのに〉

「塩はこれしかないの」


 おう……。

 マジかよ。


「この隙に上に逃げよう」

〈わかった〉


 俺は言われたとおり、ラファを抱えると、また腕を伸ばして穴の入り口に引っ掛ける。


 またナメクジに引き返させられるかもしれないけど、ここよりはマシだろう。


 ……と思ったら、ラファは違うことを言ってきた。


「その穴はやめよう。一か八か、べつのルートにしよう。このまま岩壁を上っていって」


 一か八か……か。


 嫌な予感しかしないけど、ここはラファを信じるしかない。


 俺は杭とゴーレムの伸びる腕を駆使して、岩壁を上っていく。

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