193 ヘルメス・刻をこえて

 どうも、リビングアーマーの俺です。


 天空塔ダンジョンの最上階を目指していた俺たち。


 さあ、攻略を再開するぞ! と思ったところに謎の声が聞こえてきた。

 そして俺たちは一気に塔の屋上まで連れてこられた。


 そんな俺たちの前に声の主が姿を現す。


 その顔は……。


「私そっくり……」


 と声を上げたのはクラクラ。

 そう、その人物はクラクラとよく似ていた。


 ただ、よく見ると、雰囲気が違う。


 クラクラは騎士ということもあってどこか凛々しい感じだけど。

 現れた人物はどっちかというと柔らかい印象だ。


「……そんな」


 息を呑んでいるのはドグラである。


「ライレンシア……?」


 目を擦り、もう一度現れた人物を見る。


 ライレンシア。

 バリガンガルドの近くの湖の名前の由来になった人物で。

 絶海の孤島ダンジョンにいたゴーレムの名前にもなっていて。

 そして、ドグラの婚約者……。


 確かに、彼女がそうだというなら。

 クラクラを見たドグラが、ライレンシアと勘違いするのも頷ける。


 しかし……。


「いや……違うな。似ているが、ライレンシアではない。貴様、何者じゃ」


 ドグラの問いに、その人物は柔らかく笑みを浮かべながら軽く頭を下げた。


「わたくしはこの塔を生み出した者」


 え?

 それってつまり……。


「ヘルメス・ライレンシアと申します」


 え?

 あ?

 ん?


 なんだってーーーーー!?


「へ、へ、ヘルメスって、あ、あ、あの、原初の魔法使いと呼ばれる、あの、ヘルメスですか!?」


「はい、そのヘルメスです」


 アルメルの問いに、あっさりと頷くヘルメスさん。


 ヘルメスって。


 ダンジョンの入り口の館を作ったとか。

 魔王を倒したとか。

 ゴーレムを作ったとか。

 原初魔法(俺が放った白光とかだ)を生み出したとか。

 帝都を築いたとか。


 やたらに色んな伝説が一人歩きしている、あのヘルメスのこと?


 俺が問いかけると、ヘルメスさんはそれにもあっさり頷いた。


「その通りです。あと、それは事実ですね。ダンジョンの入り口の館を築いたのも、魔王を倒したのも、ゴーレムを作ったのも、原初魔法を生み出したのも、ヴォルフォニア帝国の以前の帝都を築いたのも、全てわたくしです」


 …………。


 まさか本人の口から答えを聞くことになるとは。


「では、ライレンシアというのはなんじゃ。我の愛したあのライレンシアは……」


 ドグラの問いに、ヘルメスさんは答える。


「ライレンシアは姓で、始祖となるのがわたくしです」


〈つまり、ファミリーネーム?〉


「はい。一時期、名として使われていたこともあったようですが」


 ああ、俺がいた世界でもあるよな。

 ファーストネームにもファミリーネームにも使われる名前って。


 ドグラの婚約者のライレンシアはそのパターンだったわけだ。


「あ、では、この塔に何かの装置を取り付けたライレンシア博士というのは?」


 アルメルが問う。


「わたくしの末裔です。わたくしの子孫は各地におりますので。なにしろ、原初の魔法使いの血を引く者となれば、各地から引く手数多でしたからね。わたくしのひ孫世代あたりが、特にすごかったです」


 なるほど。

 そしてその血は、フリエルノーラ国のエルフにも入っていた。

 クラクラもそれを受け継いでいた、というわけか。


「それでは、貴様はずっとここで下界を見下ろして暮らしていたというわけか?」


 ドグラが訪ねる。


 そうだ。

 ヘルメスは数千年も前の人物だったはずだ。

 それから今までずっと、ここにこもっていた?


「失礼いたしました。わたくしは正確には、ヘルメス本人ではありません」


 ん、どういうこと?


「わたくしは、この天空塔ダンジョンに残されたヘルメスの意識の残滓です。ヘルメスの目的を達成するため、救世主が現れるのを待っていたのです」


 救世主?


「あなたのことです」


 とヘルメスさんはこっちを見る。


 え?

 は?


 ……俺!?

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