48 お・ぼ・れ・たー!?

 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる~~。


 うおおおおおおお!

 視界が超ゆれる!

 回転してる!

 目が回る!


 俺とロロコは洞窟に突然現れた激流に飲み込まれた。


 俺の手はロロコとがっちりにぎりあってるので、はぐれる心配はない。

 ただ、俺は二の腕パーツから先しかない状態。

 なので、水の勢いで、手首のところでぐるぐる回ってるってわけだ。


 視覚は手のひらにあるので、そこは回ってないんだけどね。

 気分的に、身体が回ってると、やっぱキツい。


〈ロロコ! 大丈夫か〉


 こくこくっ。


 と、俺の呼びかけにロロコは頷く。


 って、俺、なんで水中で声出せてるの!?


 ……ま、俺の声が普通じゃないのは知ってたけどね。

 明らかに、スピーカーから出てるみたいな音だもん。


 声、というか、音っていうのは振動だ。

 だから、水の中でも伝わるってのはわかる。

 普通の人間も、水中で喋って喋れないことはない。


 けど、人間は水の中じゃ呼吸できない。

 息を吸えなきゃ、それを吐いて声を出し続けるのは無理ってわけだ。


 俺はその呼吸をしてないんだよな。

 なんていうか、本体である霊体を震わせて声を出してるんだと思う。

 だから、水中でも問題なく発音できたんだ。


 つまり、俺はいくらこの激流の中にいても、溺れ死にもしないわけだ。


 けど、ロロコはそうはいかない。


 なんとか、抜け出す方法は……。


 ――ガゴンガゴンガゴン!


 ぎゃー!

 俺の腕が周りの壁にぶつかった!


 いま、この身体ヒビだらけなんだよ!

 そんな激しくぶつかったらバラバラに崩れちゃう!


 もっと、洗濯機のソフト洗いみたいに優しくして!


 ――ガンゴンガンゴンガンゴン!


 あっはい。

 無理っぽいですね……。


 くそ。

 ますます早く抜け出さないと!


 ツンツン。


〈ん? どうしたロロコっ〉


 って、ロロコと手握ってるから、手のひらの視覚じゃなにも見えねえ。


 視覚を移すか。


 前に、鱗状鎧の板を偵察に出すときに視覚を移動させたことがある。

 あの要領だ。


 ぬおおおおおおお……!


 ――よし、できた!


 手の甲側にもう一つ目ができた感じだ。


 その視覚でロロコを見る。

 彼女は、指を指している。

 その方向を見ると……。


〈水面っ!?〉


 そう。

 なんかゆらゆら揺らめいてる水面が見える。


 ということは、あそこから顔を出せば息ができる!


 だが、水の流れが速すぎて、ロロコは泳げないようだ。

 手足をばたつかせてはいるが、全然思うように動けていない。


 どうすれば……。


〈……そうだ!〉


 ロロコが「どうするの?」って顔で見てくる。


 ふっふっふ。

 こうするのだ!


 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる~~!!


 流れでぐるぐる回転してた腕を、自分で逆に回す。


 これ、回ってたのは、二の腕パーツの付け根の部分のせいっぽいのだ。

 肩パーツとつながる部分の、軽く湾曲した、平べったい部分。

 そこが流れを受けて回ってた。


 そう。

 なんか、船のスクリューみたいじゃね?


 ってことは、俺の力で逆回転させれば、水を押し出せるってことじゃね?


 うおおおおおおおおおお!


 とは言っても、完全に流れに逆らうと効率が悪すぎる。

 激流を斜めに受け流す感じで。

 ただし、少しずつ上方へ。


 いいぞ!

 いけるいける!


 ロロコの泳ぎも、ちょっとずつ補助になってきた。


 俺とロロコは浮かび上がり――。


 ――バシャアアアアン!


 よっしゃ!

 成功!


「ぷはっ!」


 ロロコが息を吸う。

 よく頑張った!

 さあ好きなだけ呼吸しろ!


「あ」


〈あ?〉


 なんだよ。

 変わった深呼吸だな。


 と、ロロコが目を向けているほうを見る。


 そこは、ごく狭い空間だった。

 この辺りではちょっと高い位置にある。

 で、空気が溜まってることもあって、水が天井まで届かないんだろう。

 ちょっとした足場もある。


 その足場に、大量に。


 でっかいトカゲみたいなモンスターがいた。


〈――ぎゃああああああ!〉

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