73 カメのバカ!

 ドラゴンを封印するため接近を試みるリビングアーマーの俺五十四体。


 それが、ドラゴンの咆哮で一斉にひび割れた。


 ええええええ!?

 話違くない?


 十分は保つって話だったよね?


〈どういうことだよ?〉


 と俺はエドに問う。


 と言っても、ドラゴンに向かう鎧が、ではないよ。

 バリガンガルドの城壁の上にみんなと一緒に残っている普通の鎧の俺だ。


 対するエドの答え。


「十分というのは概算です。もっと保つかもしれませんし保たないかもしれません」


 ダメだ!

 くその役にも立たねえ!


 マズいなぁ……。


 前に鎧が壊れたときは、その破片は俺の意思では動かせなくなった。

 細かく割れると、鎧パーツとは認識されなくなるらしいのだ。


 ドラゴンの咆哮でできたひび割れはかなり細かい。

 このサイズで完全に割れたら、操作はきっと不可能だ。


 つまり、この鎧五十四体が一斉に役立たずになるってわけ。


 そうなる前になんとかしないと……。


 五十四体のオレはなるべく静かに走る。

 ドラゴンを刺激しないように。


 ――ガシャンガシャンガシャンガシャンガシャン!


 ……うるせえなあ!


 いや自分なんだけどさ!


 慣れると気にならなくなってくるんだけど。

 気になるときはほんと気になるな。


 ぎろり、とドラゴンがオレを睨んでくる。


 あー……すみませんね。

 うるさいのが気に障りましたかね?


 ――グオオオオオォォォォオオオオオオオオオオオアアアアアアアア!


 ビシビシビシッ!


 ぎゃー!

 またヒビが入ったー!


 何体かの腕がもげて落ちてしまった。

 脚が折れてしまったのも何体か。


 くそ……っ。

 ほんと厄介だな。


〈仕方ねえな……〉


 オレはその場に立ち止まり剣を構える。

 そしてドラゴンを睨みつける。


 ――グオオオオオ……。


 自分の目の前の鎧軍団を見て、ドラゴンは唸り声を上げる。

 なんとなく、怪訝そうだ。


 そりゃ不思議だろうな。


 ただの人間(にしか見えないだろう)が剣で挑んできてる。

 魔法を使ってくるわけでもない。

 どう考えても、自分を倒せる相手じゃないんだから。


 けど、実はドラゴンに向かってるのは全部おとり。


 本命は、さっきヒビが入って脚が折れてしまった中の一体だ。


 そいつは今、ドラゴンの背中にいる。

 フヨフヨ浮きながら頭目指して直進中だ。


 そう、オレはちょっとだけ空を飛ぶことができる。

 飛行ってレベルじゃないけどね。


 このくらいなら鎧があっても変じゃないよねってくらいの高さまでならいける。

 前にもこうやってカエルと毒の沼を突破したことがあったな。


 あれからまだ二日くらいしか経ってないのか?

 なんか、はるか昔の話みたいに感じるな。


 とにかくこの技でドラゴンの頭に接近中。


 そしてこの一体は例の板を持っている。

 ドラゴンを封印するための魔法陣が描かれた金属板。


 これをドラゴンの口に放り込めば勝利だ。


 ――グオオオオオッ!


 うぉ!


 ドラゴンの背中が揺れた!


 前脚を奮って、目の前にいる俺たちをなぎ払おうとしているのだ。


 剣を構えていた俺たちはかわそうとする。


 ぎゃー!


 避けきれずに何体かふっとんだ。


 くそ、でかいからって好き放題しやがって。

 今に見てろよ。


 幸いドラゴンの背中の俺は、浮いているので揺れの影響はない。


 フヨフヨフヨフヨ、ドラゴンの首のところまでくる。


 はっはっは。

 でかいせいで、後ろにいるこのちっぽけな鎧になんて気付いてもいるまい。


 ――グオオオオオオオオオオッ!


 イライラした様子で目の前の鎧軍団を吹っ飛ばしていくドラゴン。


 ひび割れていたのがどんどんぶっ壊れていくけど、尊い犠牲だ。

 最後にこの一体が頭にたどり着けばそれでいい。


 ――グオオオオオォォォォオオオオオオオオオオオアアアアアアアア!


 ビシビシビシビシ!


 やっべ、怒らせすぎた!


 咆哮で一気にヒビが深くなる。


 ちょっとした衝撃で今にも崩れそうだ。


 しかしドラゴンの頭はもう目の前。

 これならいける!


 ドラゴンの背中側から迫る俺は、一気に前に回り込んだ。

 手に持っていた金属板を掲げ、ドラゴンの口に放り込もうと――。


「危ない! リビタン殿!」


 エルフのクラクラの声。


 え、なんでクラクラがここに?


 別の個体の目を向ければ、クラクラの他にも何人かがドラゴンの近くまで来ていた。


 どうやら、亀モンスターたちの一部がパニクってこっちに来てしまったらしい。

 それを追いかけているうちにこんな近くまで来てしまったと。


 で。


 その亀モンスターなんだけど。


 そのうちの一体が偶然ドラゴンの頭の方に甲羅の砲台を向けていた。


〈え、ちょ……〉


 ドラゴンに向けて金属板を放り込むのに集中していた俺は、避ける余裕なんかない。


 ――どがごおおおおおおおおおおおおおん!


 キャノントータスの空気砲!

 こうかはばつぐんだ!


 すごい勢いの空気の塊が俺にぶち当たる。


 ヒビだらけだった俺の身体は粉々に砕け散る。


 ついでに、ドラゴンを封印するための金属板もバラバラになって吹き飛んだ。


 ………………カメのバカ!

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