ライトノベルとかどうよ?

 ペンを握ることなく十一月が終わろうとしていた。

 ケータイ小説の更新もできなくなって、このままでは共倒れになってしまう。


 そこで僕は、読書家の友人A君に相談した。圧倒的な知識量と聞き上手というスキルを併せ持つ最強の友人である。


 A君の返事はこうだった。


「架空戦記とか書いてたんだし、ライトノベルの方が向いてるんじゃない?」


 ……なに、ライトノベルって。


 僕の反応はそんな感じだった。


 漫画っぽいイラストのついた、若年層向けの小説ということらしい。


 ほう、そういうジャンルもあるのか。しかし説明だけでは全容が掴めないので、何かオススメあれば参考に貸してもらえないかな? とお願いしたら、後日渡されたのが川上稔さんの『境界線上のホライゾン』だった。いま考えると、あまり初心者向けじゃない気がする(笑)


 それでも頑張って読み、なんとなくの感覚を掴んだ。

 確かに、こういうジャンルの方が合っているかも。


 もっと勉強したくなり、今度は自分の感覚を信じて選んでみた。雨木シュウスケさんの『鋼殻のレギオス』や山門敬弘さんの『風の聖痕』など、気になるものから順に読んでいった。インパクトが強かったのは葵せきなさんの『生徒会の一存』で、ほぼ会話じゃん、こういうのもオッケーなんだ! と、とにかく発見だらけだった。


 が、最大の衝撃は浅井ラボさんの『されど罪人は竜と踊る』だった。戦闘描写のかっこよさ、ストーリー展開、主人公二人のやりとり、咒式の設定――心をわしづかみにされた。


 すごい。ライトノベルいいじゃん!


 読書を通して、書きたい気持ちに再び火がついた。十二月半ばのことだった。


 僕は意を決して、新品のパソコンを買うことにした。

 ライトノベルの新人賞を調べてみたら、手書き原稿不可、というところが多かったのだ。今後のことを考えても、PCはあった方が便利なのは間違いない。


 パソコンに詳しい友人K君に同行してもらい、デスクトップPCを買った。15万ほどが吹っ飛んで口座の残高が大変さみしくなった。それでも満足感の方が大きく、早速プロットに着手した。


 狙いは富士見書房のファンタジア大賞だった。


 それまで読んできたラノベの中で、ファンタジア文庫の占める割合が高かったからだ。自分好みの作品を出しているレーベルに応募したいという気持ちが強かった。


 色々考え、異世界ファンタジーを書くことにした。

 特殊な石に触れた時、最初に心の中に浮かんだイメージがその人の異能になる。そんな設定のバトルファンタジーだ。


 主人公は血が噴き出すイメージを浮かべたため、自分の体を切らなければ異能が使えない。血をさまざまな形に変え、相手に応じた戦い方ができるテクニック型。

 火属性の主人公をよく見かけるので、相棒の少年を炎使いにしようと決めた。

 メインヒロインは光線使い。


 舞台は砂漠で、主人公と相棒は行商人だ。旅の途中、ごろつきに襲われているヒロインを助ける。彼女は強制労働からようやく解放され、故郷に戻る旅路の途中だった。が、話が進んでいくうちにあれはただのごろつきではなかったことがわかる。ある組織の一員で、ヒロインが偶然手に入れた、異能に関連する宝石を狙っていたのだ。


 逃亡劇と激しいバトルの末に組織のボスを倒し、一行はついにヒロインの故郷にたどり着く。しかし、彼女の一族は戦争に巻き込まれて集落を捨て、別の土地へ移っていったあとだった――。


 一巻でまとめつつ、続編を書くことも可能な構造を作った。乱歩賞のネタよりはよくできているのではないかと思い、ゆっくり書き始めた。


 相変わらず残業が続き、時間の確保が難しい中でも、原稿は確実に枚数を増やしていった。


 しかし、この原稿も完成することはなかった。

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