やっぱり一次が抜けられない

 日本ミステリー文学大賞新人賞に応募できず疲れただけに終わった僕は、しばらく原稿が書けなかった。


 とりあえずは仕事をちゃんと覚えることに集中した。


 ただ、急激な吐き気に襲われることもあり、早退させてもらうこともしばしばだった。明らかに迷惑をかけている。それでも、いてくれた方がありがたいと言ってもらえた。


 六月いっぱいは小説を読む方に集中した。

 色々な知識を得て、次は時間をかけてミステリに挑戦しようと思った。


 七月になった。


 電撃小説大賞の一次発表の日。


 午後にはすでに発表されているのを把握していたが、なかなかページを開く勇気が出なかった。


 そのまま夕方の散歩に出かけた。


 帰ったら確認しよう。


 歩きながらあれこれ考えた。


 通っていたら、落ちていたら……。


 そのうち、雨が落ちてきた。

 一気に土砂降りになった。田んぼ道のど真ん中だったので隠れられる場所もなく一瞬でずぶ濡れになった。


 僕はうなだれて帰宅し、風呂に入った。あとで結果を見よう。とにかく行動が回りくどかった。


 体を温めたあと、ようやく電撃小説大賞のホームページを開いた。


 やっぱり電撃の一次通過者は多い。今回も大勢通っている。


 いけるか、どうだ、名前はあるか、見逃すなよ――。


 心臓がバクバク鳴っている。自分の名前を探している時はいつもそうだ。緊張感が最大になる瞬間。


 そして、ため息をついた。


 今回も、僕の名前はなかった。


 去年の『碧海航路』よりはうまく書けたという感覚があった。それでもかすりさえしなかった。自分の認識はおかしいのだろうか。


 ページを閉じて、次の話を書こうと思った。


 けれど、その日は何も浮かんでこなかった。

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