ついに祖母の介護から解放される
8月の話。
お盆にこのミス大賞から落選通知を受けて、僕はダメージを受けていた。
そんな中、母に言われた。
「ばあちゃん、老人ホームどうかって言われたんだけど」
実は6月に、地元の施設へ入所希望届を出していた。
それまでに様々な議論があった。母は、やはり自分の親ということもあって自分で世話をしたかったようだ。しかし僕は統合失調症を抱えて面倒を見ていたし、弟も夜中に祖母に起こされまくって不眠症になり、はっきりわかるほど痩せてしまっていた。
「もう施設に入ってもらうしかない。じゃないとみんなダメになる」
それが僕と弟の考えだった。
母も含めてみんなが祖母と言い争っていたのだから完全な地獄だった。こんな状況が何年も続いていたのである。
俺たちは頑張った。これ以上は頑張りきれない……。
そういう流れになって、入所希望を出すことになったのだ。
この時、祖母の要介護度は3だった。施設は4以上の高齢者を優先して入所させるため、かなり待つことになるだろうという話だった。が、その後要介護度が4になって優先度が上がり、さらに施設の枠が一気にたくさん空いたことなども関係し、祖母が入れる状況になったのだ。
入所は9月からというのが施設からの提案だった。
急すぎてついていけなかった。
確かに祖母の相手をするのは限界に近かった。それでもあと2週間ほどでもう家からいなくなるというのはかなり衝撃的である。
戸惑いはあったものの、施設にお願いすることになった。
そして9月を迎え、祖母は老人ホームに入所した。
家の中は静かになり、最初のうちは違和感がすさまじかった。
まだ祖母に呼び出されるようなおびえがあったが、当然そんなことはありえず、僕は自由になった。
こうなったからには、もっと創作に打ち込むべきだ。
もしかしたらこれがきっかけで、統合失調症も改善に向かうかもしれない。前向きな気持ちになれた。
このミス大賞、角川文庫キャラクター小説大賞、福ミスで落選を食らったが、また一から書いていこうと思った。
そうして、カクヨムのラブコメを除くと、2月以来の新作を書き始めた。
「
山奥の豪邸が舞台だ。この屋敷は、災害などで壊れた墓石を引き取って敷地を囲んでいた。そこで開かれた、富豪ばかりを集めた集会。父の代理として参加した主人公のお嬢様は、否応なしに事件に巻き込まれる。
この作品は嵐の山荘ものだ。乱歩賞の応募作で嵐の孤島を書いたら楽しかったので、似たようなシチュエーションを作りたかった。ここでも、「なぜ犯人はクローズドサークルで事件を起こすのか」について考えることにして、理由を作り出した。土砂崩れと豪雨により警察が近づけない中での連続殺人。ベタにするのは、ベタなものに必然性を持たせたいからだ。
今作も「少女たちの秒針」に続き女性二人組を主人公に据えた。
以前ツイッターを眺めていて、「本格ミステリには女性のバディが少ない気がする」というツイートを見つけた。
言われてみると、自分が集めているプロ作家のシリーズものはだいたい男性コンビか男女の組み合わせだ。
そのツイートを目にしてから、ずっと女性バディものの意識が頭にあった。今作は主人公の性別がどちらでも問題ないので、女性二人組とした。
作品は、福ミスの落選を知った数日後、9月中旬から書き始めた。
狙いは10月末〆切りの鮎川哲也賞だ。
いろんなミステリ新人賞に投稿してきたが、僕は常に本格ミステリを意識して書いている。だから本来ならどの作品も鮎川に送るべきなのだが、不思議とタイミングが合わない。唯一応募できた第27回は二次で落ちている。今年は絶対に参戦しよう。そんな気持ちで原稿と向き合った。
10月になった段階で、原稿は規定枚数下限の半分ほどに到達していた。すでに第一の事件も起きて、主人公たちが捜査を始めている。
このペースでいけば第2週までには完結し、残り2週間を推敲に当てられる。僕はそんなプランを立てていた。乱歩賞の時は1ヶ月前に完成していたからやや遅めではあるけれど、とにかく書き上げてしまえば新作で堂々と参加できる。
……はずだったのだが、このプランは直後に完全崩壊することになった。
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