選考期間の短さは重要

 6月終盤になって消防団の操法大会がやってきた。

 出場15分団のうち上位6分団が県大会に出場することになっている。


 僕らはみんなやる気がなかった。うっかり県大会に行って練習期間が長引くのがみんな嫌だったのである。

 かといって、惨敗で終わりというわけにもいかなかった。

 区長さんや地元出身の市議会議員さんなどが支援してくれたので、あんまり情けない結果だと分団の面目が丸つぶれになるからだ。めんどくさい。

 なので、県大会出場を回避しつつ「頑張った」報告をするには7、8位あたりを獲るのがベストだという話になった。


 大会当日の朝、副分団長は「7位になれるように神社でお参りしてきた」と言ってみんなを笑わせた。


 そして本番を迎え――僕達は7位になった。6位とは総合点で2ポイント差の敗退。しかも出場した選手のうち一人が個人賞を獲得し、堂々と報告できる内容になったのだ。


 選手も含めてみんな満面の笑みだった。

「よくやったお前ら!」

「ナイス7位!」

「世界でもっとも価値のある7位だ!」

 なんて言葉が飛び交って笑いが止まらなかった。


 こうして消防団からの拘束が解けて僕は楽になった。


 それからしばらく経った。以前、新潮ミステリー大賞の最終候補になった時に連絡をもらった日がやってきた。

 が、なんにも音沙汰はなかった。

 さらに数日待ってみた。やはり何もなかった。


 どうやら「重力の蝶」は落ちたらしい。


 久しぶりに原稿ファイルを開いてびっくりした。無駄な文章が多すぎて、「こんなにひどかったか?」と感じたのだ。短文をたたみかけるスタイルはそのままに、どうでもいいことがたくさん書かれているのだ。

 陸上の選手が高速で足を回転させながら遠回りのルートを走っている感じで、文章のリズム自体は悪くないのに話がなかなか進んでいかない。


 そりゃ落ちるか……と納得した。


 7月22日。

『小説新潮』を買って最終候補者と一次通過者を確認した。僕は一次通過者の方に名前があり、編集部選考の段階で落ちたことがわかった。修正点は見えているし、この原稿も書き直してどこかに応募したいと思った。


 だが、「重力の蝶」の改稿は時間がかかりそうだった。こちらはひとまず置いておき、別の作品で次の賞を狙うべきだろう。

 問題は次の応募先だった。

 消防の大会と職場の肉体労働、祖母の介護といった要素に疲弊させられ、新しい原稿を書く気力を完全に奪われていた。改稿作を送るしか手がない状態なのだった。


 新人賞の締め切りを調べていると直近に二つ賞があることがわかった。


 光文社の本格ミステリー新人発掘企画「カッパ・ツー」の第二期。これは7/31。僕は2015年の第一期に応募したが一次落ちだった。


 もう一つは星海社FICTIONS新人賞。こちらは8/3締め切り。


 僕はメフィスト賞に応募した「牢獄探偵・姫室恋歌は歩かない」の改稿版をどちらかに送ろうと思った。本格ミステリとして書いたのだからカッパ・ツーでも問題ないし、ジャンル指定のない星海社でもOKだ。


 応募要項を読んで、星海社FICTIONS新人賞に決めた。

 選考期間が短かったからである。

 カッパ・ツーは7月末締め切りで、受賞者の発表は翌年の3月となっていた。

 FICTIONS新人賞は8/3締め切りで10月に発表とある。


 僕にはとにかく余裕がなかったので、一刻も早く結果がほしかった。焦ったってどうにもならないと頭では理解していても、自分を止められなかった。形はなんでもいい。デビューさえできれば……。


 おそらく思考回路も鈍っていたと思うが、ただその気持ちでいっぱいだった。


 7月末、僕は原稿の最終チェックに入った。


 ところでこの月、地元長野県出身の力士・御嶽海が名古屋場所で初優勝を決めた。それにとても勇気づけられたことは書いておきたい。

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