努力の方向性が間違っている

 星海社FICTIONS新人賞への応募を決めた僕には心配があった。

 それは、ミステリをわかってくれる編集者が読んでくれるかどうか、ということだった。


 星海社FICTIONS新人賞はメフィスト賞と選考方法が同じで、すべて編集者が読む。編集長は元メフィストの編集者で、舞城王太郎さんや西尾維新さんをデビューさせた名物編集者のOさんだ(座談会を読めばわかることだけど一応イニシャルで)。


 このOさんが応募作を編集部員に振り分ける。そして、各自が読んで座談会に上げる作品を選んでいく。そして、座談会に上がらなくても全応募作に短いコメントがもらえるようになっている。


 問題はこの段階だ。

 ミステリに理解のある方に読んでもらって、その人からの評価を聞きたいというのが僕の思いだった。メフィスト賞でもらったコメントに納得いかなかったからだ。

 過去の座談会によると、Oさんは得意ジャンルを持っている編集さんには、そのタイプの応募作を振り分けているようだった。


 星海社FICTIONS新人賞のサイトを見ていくと、編集部員全員がツイッターのアカウントを持っていることがわかった。

 過去の座談会すべてに目を通し、さらに全員のツイッターもさかのぼって読んでみた。


 Oさんはミステリに理解があるものの、編集長だからか一次選考から読むことは少ないようだ。

 調べた結果、Mさんという編集さんが一番ミステリへの言及が多い、と感じた。


 この人に自分の原稿を読んでもらうにはどうすればいいか。

 星海社FICTIONS新人賞では、応募作にキャッチコピーをつけることになっている。ここで本格ミステリであることを強調しておけば、Mさんに原稿が渡る可能性が上がるのではないだろうか。


 僕は『牢獄探偵・姫室恋歌は歩かない』を改題して『鳥籠探偵と一本の鎖』とした。

 一本の鎖というのは、佐野洋氏の名作ミステリ『一本の鉛』のパロディである。それで、こいつはそこそこミステリの知識があるらしいことをアピールしてみる。

 あらすじでは連作短編集であることを明確にした。その上で鎖という文字を使うのは効果的かもしれない、と考えたのだ。

 ミステリの連作短編集で鎖――と来たら、最後にそれが連鎖してつながることをイメージさせるからだ。


 次にキャッチコピー。

「安楽椅子探偵×ホワイダニット×年の差百合」と書いた。


 安楽椅子探偵は言うまでもなくミステリの形式の一つ。

 ホワイダニットは動機探しのミステリジャンル。

 これとタイトルを合わせて本格ミステリであることをとにかく前面に出す。年の差百合? いものです。


 すでに改稿は終えていたので、今回はパッケージングを頑張った。努力の方向を間違えている気がしないでもなかったが、一番わかってくれそうな人に手に取ってもらいたいと思うのは、応募者としては自然な願いではないだろうか。


 こうして僕は『鳥籠探偵と一本の鎖』を応募した。


     †


 で、結果を書いてしまうと落ちた。

 ただ、一行切りではなく座談会でちゃんと言及してもらえた。

 僕の狙い通り、読んでくれたのはMさんだった。


 コンセプトはよかったが、真相が弱かったり伏線が足りないなどの弱点を指摘され、商業レベルにはもうちょっと、という評価だった。


 人物周りを意識しすぎたせいか、肝心のミステリとしての部分が甘くなっていた。メフィスト賞で言われた「ミステリはつけたしのよう」というのも、ここが引っかかったからこその指摘だったのろう。わかりやすい言葉にしてもらえたことで、ようやく納得できた。


 ツイッターで結果を報告すると、Mさんからリプライが飛んできて、構成はよかったのでぜひまた応募してほしいと言っていただけた。

 そのおかげで、また頑張れそうな気がした。


 ちなみにこの座談会は星海社FICTIONS新人賞で検索すれば読める。気になる方は「2018年 夏」の座談会ページをご覧ください。

 さらに言うと、この座談会では「鳥籠探偵」が「烏龍ウーロン探偵」と表記されている。どんな探偵だ(笑)

 さすがにその見間違いはちょっと……と言いたくなる誤字なので、できれば直していただきたいところ。

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