もう一回、見てください

 カッパ・ツーには本格ミステリを送った。

 同時に、ライトノベル新人賞にも応募したかった。


 新しい作品のネタがすでにいくつかあり、どれから取りかかってもよかったのだが、他にやりたいこともあった。


 MF文庫の新人賞で二次落ちした「逆立ちする海神ネプチューン」の改稿だった。

 夏に読み返していたら、「こういう案はどうか?」というアイディアが出てきたのだ。


 修正案は三つ。


 ヒロインズと主人公の会話を全面的に見直すこと。

 主人公に、思ったように戦えなかったという悔しさを感じさせること。

 設定の出し惜しみをしないこと。


 この作品では主人公達が異能を使う。異能といっても王道ファンタジーの魔法とほぼ同じなのだが、人間がそれを身に宿すには条件がある。そこを曖昧にしておかず、はっきりさせておこうと考えた。


 まだ規定枚数上限に余裕があるので、中盤のやや手前にバトルを一回追加し、そこで主人公がモンスターにやられかけるシーンを入れる。メインヒロインに助けてもらうのだが、このあとの心理描写をしっかり書き込む。自分を情けなく感じたり、仲間の足を引っ張らないよう努力しようと思ったり、こんなんじゃ姉さんの仇なんて討てないぞと改めて復讐に思いをはせたり。


 ヒロインとの会話はぽつぽつ入れていったが、ここで思わぬ展開になった。ヒロインは四人。その中にお嬢様姉妹がいるのだが、姉の性格が大幅に変化したのだ。


 主人公に異能の説明をするシーン。「まず、こちらに来てください」と言って彼女は船室の壁際に移動する。壁を背にして主人公を向き合うと、彼女は、「ここに右手をついて、『教えて?』と訊いてもらえますか?」と言う。


 なんでこのヒロインは壁ドンをお願いしてるんだ……。


 流れで出てきたセリフだったので、自分でもよくわからない。このあと、主人公ともう一人の男キャラの絡みを見て、彼女は目をキラキラさせている。


 おい……乙女と腐の両輪が転がり出したぞ……。


 こんな予定ではなかったのだが、勢いで最後まで押し通した。おしとやかなだけだったお嬢様が事あるごとに暴走するようになったので、付随して他のキャラクターの出番が増えた。結果的に作品世界がものすごく賑やかになり、何度も読み返すのがまったく苦にならなかった。


 キャラ一人の性格が変わるだけで劇的な変化が生じた。新鮮な感覚だった。


 他の部分もどんどん変えていったので、もはやこれは「逆立ちする海神」ではない作品になった、という感じがした。


 なので、タイトルを変えることにした。


 主人公達が乗っている帆船の名前は『ガンマディオラ』という。これを使うのが一番いいだろう。


 というわけで題名を「蒼海のガンマディオラ」とした。最初の新人賞応募作品である「蒼海の黒刃ブラックソード」も頭にあった。


 僕はこれを、再び講談社ラノベチャレンジカップに応募することにした。「逆立ちする海神」を最初に送ったのがその賞だった。根幹は同じだが、中身は大きく変わっている。この賞は一次からほとんどの作品を編集者が読んでいると公言していたが、同じ人に当たるとは限らない。それでも、この編集部にもう一度評価してもらいたかった。


 前回は一次落ちである。


 ――もう一度、読んで、判断してもらえないでしょうか。


 10月下旬。


 僕はその思いとともに作品を送り出した。

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