改稿再応募についての議論

 10月になった直後のこと。

 日本ミステリー文学大賞新人賞の最終選考を待っている間に、このミステリーがすごい!大賞が発表された。


 受賞したのは蒼井ぺきさんの『オーパーツ 死を招く至宝』。

 この作品がメフィスト賞の落選作を改稿したものだったということで、ツイッターなどではちょっとした議論が巻き起こった。


 他の新人賞で落ちた作品を別の賞に送るのはどうなのか、という話だ。


 僕はこの議論には加わらなかったが、気まずい気持ちで眺めていた。

 自分が今まさに改稿作で最終候補になっているからだ。


 色んな人の意見を目にしたが、再応募に否定的なのは主にミステリ系の関係者だった。


 有名どころのライトノベル編集者さんは「レーベルによって求める作品が違うので、改稿応募はしてみた方がいい」とつぶやいておられた。が、こうした意見の方が少なかったように思う。


 ミステリ畑からは、予選を担当することの多い評論家・書評家各氏が否定的な意見を展開した。


 新人賞を受賞したら、ずっと書き続けていくことになる。一つの作品にこだわっていないでたくさん書き、量産能力をつけるべき。――これはわかる。


 予選委員は複数の賞の下読みを兼任していることが多いから、同じ原稿に当たれば印象が悪いし、新鮮さという点からマイナス。――これには疑問が多い。


 そもそも同じ人が複数の賞の予選を掛け持ちしているシステム自体には誰も疑問を抱かないのか?


 僕はずっと前から不思議に感じていた。


 このミス大賞をはじめ様々な選評を読んできたけれど、時々に目にしたのが「ある人が短所だと指摘したところを、別の人が長所だと評価した」というパターンだ。人によって評価基準は違うのである。


「選考委員は自分の好みで作品を選んだりしない」と断言する方もいて、そうであってほしいとは思うけれど、やっぱり送る側は不安なのだ。


 その人の好み云々よりも、評価基準が。


 再応募は無駄と言われても、けっこうな頻度で、他賞の落選作が別の賞で受賞したというケースが発生している。このミスの「次回作に期待(※1)」だった作品が乱歩賞の最終候補になったことだってあるのだ。


 落選したものをまったくいじらずたらい回しにするのは確かに無駄だと思う。

 だが、改稿再応募について、予選のシステムについてはもう少し検討されてもいいのではないかと思ってしまう。


 受賞できなきゃどれも同じ。わかっている。何度も聞かされた。

 けれど、やはりどの段階まで進めたかで、次作に対するモチベーションは大きく変わる。

 同じ人に同じように評価されて二回連続の一次落ち。そんなことになっていたら悲しいじゃないか?


 まあ、こうやって愚痴をこぼしつつ結局新しい作品を書いてはいるのだが、やっぱりこの問題については多くの人が真剣に話し合うべきだ。


 どうしても同じ作品が回ってくるのが嫌なら、メフィスト賞のように「他賞に出したことのある作品は応募不可」と要項に書いてしまえばいい。それをせずに、関係者が「よくない」「また来たか」と毎年文句だけ言っているのはどうかと思う。


 ――と、どこにもつぶやかずにこんなことを考えていた10月の頭であった。



※1

次回作に期待……このミステリーがすごい!大賞で、一次通過はさせられないけど、光るところのあった作品に予選委員が言及するコーナー。

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