2回目の最終候補っっ!!

 初のネーム原作投稿は惨敗に終わった。

 これで冷静さを取り戻した僕は、ようやく迷走気味の自分を自覚した。

 初心に返ってミステリのプロットを新しく作ろう。そう決めてすぐさま取りかかった。


 時期が進んで9月5日。

 日本ミステリー文学大賞新人賞の予選会の日である。

 事前に一次通過と二重投稿の有無を確認するメールがあり、その日が予選会だとわかっていた。


 心療内科への通院日だったので市街地へ下った。

 お昼を食べながらツイッターを開いた。


 日ミス大賞の予選委員は7人。ミステリ評論家で固められている。僕はツイッターをやっている方のアカウントを一つずつチェックしていった。

 すると、そのうちの一人が「某賞の予選会に向かっています」とツイートしていた。ぼかしているが応募している側からすれば簡単にわかる。


 ツイートの時間から見て、予選会は2時くらいから始まるのではないかと予想した。

 一次通過は例年20数作。これを一つずつ検討していくのだから3時間はかかるはず。


 僕はまっすぐ家に帰り、早めに風呂に入ってしまった。

 そして、パソコンでプロットをいじくりながら何かが起きるのを待った。

 携帯は目の前に置いていた。

 新潮ミステリー大賞の時は電話できた。日ミスだって同じだろう。

 頼む、鳴ってくれ。電話よ、かかってこい。

 そう思いながら新作ミステリのプロットをまとめた。

 夕方。

 6時が過ぎた。

 電話は鳴らない。


 駄目だったのか……?


 諦めの気持ちが強くなっていた。

 が、そのとき不意に着信音が響き渡った。

 知らない番号からだ。


 来たっ!


 僕はすかさず電話を受けた。

 予想は当たった。

 相手が名乗り、僕の「幻狼亭事件」が最終選考に残ったことを教えてくれたのだ。詳細はまたメールするので確認してほしい、まずは報告だけ、という形だった。


 僕は大慌てで部屋を飛び出して家族のところに行った。


「最終に残った!」とテンションMAXで伝えると、母と弟がすごく喜んでくれた。おそらく意味がわかっていなかっただろう祖母も「えらいぞよくやった」と言ってくれた。


 最終選考会は10月20日に行われるという。

 その日は、大好きだった祖父の命日である。

 そしてこの連絡を受けた9月5日は、綾辻行人さんが『十角館の殺人』でデビューした、新本格ミステリ始まりの日。

 不思議な縁を感じた。


 僕はかつて、綾辻さんに原稿を読んでもらいたくて日本ミステリー文学大賞新人賞に応募しようとした。その時は枚数が足りなくて出せなかった。

 その後いったん綾辻さんは選考委員を離れたが、2015年に復帰した。その回には応募するも一次で落ちた。

 三度目の正直。

 今回こそ、綾辻行人さんに自分の原稿を読んでもらえる。

 自分にできる限りの技巧を凝らしまくった、ガチガチの本格ミステリを評価していただけるのだ。


 もう一つ重要なことがあった。

 ウェブ上で公開される予選委員の選考コメントだ。


 7人いる予選委員の中には、勝手に「師」と呼んでいる評論家、千街晶之さんがいる。

 幻想ミステリというものを書くようになった頃、千街さんの『怪奇幻想ミステリ150選』『幻視者のリアル』といった評論集を読んで、ジャンルへの理解を深めた。そこで紹介されていなければまず出会えなかったであろう作品もたくさんあった。


 というわけで僕は、千街さんが自分の作品に言及してくれたらいいな、と思ってウェブサイトでの公表を待った。


 その間にちょっとした出来事があった。光文社の編集者さんが僕のツイッターアカウントをフォローしてくださったのだ。フォローしたら返してくれた、ではなくあちらから。あまりに突然のことだったのでかなり動揺した。やりとりは一切発生しなかったが、期待が高まった。


 9月下旬にさしかかった頃、ミステリー文学資料館というサイトに日本ミステリー文学大賞新人賞の情報が公開された(予選会、最終選考会の日付もここで公表されている)。


 最終候補者、一次通過者リスト、予選委員コメントの順に並んだ。


 誰か「幻狼亭事件」に触れてくれた人は――と探していくと……。

「あっ」と反射的に奇声を上げたことを覚えている。

 取り上げてくれたのは千街晶之さんだった。

 なんと、コメントスペースの八割くらいが僕の作品への言及だった。

 期待してはいたが、いざ現実になるとすぐには受け入れられないもので、最初は何度読み返しても内容が頭に入ってこなかった。

 ラストの主人公の心理が理解できないとしつつも、本格ミステリとしての完成度を褒めてくださった。具体的にどこがよかったかまでしっかり書かれていた。


「やばい……幸せすぎて死んでしまう……」


 僕は立ったり座ったり気持ち悪い動きを繰り返した。とにかく悶えた。それくらい嬉しかったのだ。これが、尊敬している方に褒められるという喜び! たぶんにやにやしすぎて相当ひどい顔をしていたと思う。


 こうして僕は二回目の最終候補者となった。

 改稿作だからと応募をためらったが、送ってみてよかった。


 日ミスは20代で受賞した人がいないから、もし獲れれば僕が最年少受賞者になる。

 頼むぞ、頑張ってくれ。

 あとは祈るだけだった。

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