準備の年だと割り切ろう

 少し時系列が乱れたので、あったことから書いていこう。

 まず9月。

 僕は論創ミステリ大賞の原稿を書き上げて応募した。

 続いて、小学館ライトノベル大賞にも応募した。これは年の頭に書いた麻雀ラブコメだ。ネット小説のコンテストだけでなく、普通の公募ではどんな結果になるのか気になったのだ。

 10月にはネーム原作をジャンプSQに応募。

 こんな流れになる。


 論創ミステリ大賞は、締め切り(9月末)から一ヶ月以内に結果を発表するとホームページに書いていた。

 応募した作品はガチガチの本格ミステリだったので、落ちたら10月末締め切りの鮎川哲也賞にスライドできるな、などと考えていた。しかし、示し合わせたかのように結果発表は11月1日に行われた。

 新人賞で一番やってはいけないこと。それは二重投稿である。

 結果発表が終わったあとなら別の賞に出してもいいが、発表がまだの作品は、別の社に送った瞬間終わる。だからスライド計画は未遂に終わった。


 11月になると漫画の脚本を書き始めた。

 10月に根本尚さんの漫画『怪奇探偵・写楽しゃらくほむら』シリーズ(電子書籍のみ発売中)を全部読んで、「ミステリ漫画の原作を書きたい」と思ったのだ。が、ネームがどうしてもうまく描けない。どうにか形にできないものかと調べたら、少年サンデーの編集者さんの中にプロットのみの持ち込みもOKという方が何人かいた。

 じゃあ脚本で読んでもらおう! となって連載想定の1話を書いてサンデーの方にツイッターのDMで連絡を取った。


『怪奇探偵・写楽炎』では様々なトリックのパターンが出てくる。しかも1話読み切り形式だ。それを読んだおかげで、苦手意識を持っていた短編ミステリのアイディアが次々出てくるようになった。物理トリックメインか、伏線をたくさん回収する形式が多くなったように思う。


 編集さんへのデータには電話番号を書いておいたが、持ち込みから3週間経っても返事がない。なので、「読んでいただけましたか……?」と恐る恐る連絡を取ったら、DMで直接お返事がきた。

 ミステリ要素は面白いが、連載漫画はキャラクターの魅力で読んでもらう部分が多いため、これでは厳しい――とのことだった。

 自分でもお返事待ちしている時にキャラが弱いと思っていたので、改稿案を持っていた。その通りに書き直してもう一度見てもらったら「人間味がない」と言われた。加減って難しいね。


 このあいだに、GA文庫大賞に追放系ファンタジーを送った。2月にpixivで開かれたテーマ別コンテストに出したものだが、お題に沿って書けたか微妙だったので、そういうハードルのない普通の公募だったらどうかと思ったのだ。


 さてミステリ漫画脚本だが、他の編集部はどうか? と思ってウェブ漫画サイト・GANMA!編集部にも見てもらった。が、手を挙げる編集者はいなかったという事務的なメールが返ってきただけに終わった。その時点でも次の送り先を探していたのだが、「これって小説にした方が可能性あるのでは?」と冷静になった。主戦場は小説ですからね。


 じゃあ連作ミステリを書こう――と思った矢先の12月1日、小学館ライトノベル大賞でまたしても一次落ちを食らった。


 いつもの落選ブーストが発動した。落ちると悔しくて「今に見てろ」と執筆速度が上がる、あんまり嬉しくない能力である。


 連作ミステリは全四話想定でプロットを組んだ。エピローグで連作のまとめが入る形だ。

 一話はオーソドックスなプロット型ミステリ。二話は足跡のない密室。三話は変化球を入れたくて、宝石消失事件を書いた。


 送り先は、2020年にも長編を送った双葉文庫ルーキー大賞(常時募集中)に決めていた。この作品は単行本になるイメージが湧かなかったし、双葉文庫のキャラ文芸とも合っていると感じたからだ。規定枚数は200~400枚。三話まで書いた感じ、230枚くらいでまとまりそうだった。だが、それだと文庫で200ページくらいの本になる。そういう本もあるけど、キャラミスとしてはさすがに薄すぎない? 心配になったので日常の謎を四話に追加し、五話のオカルト風味殺人事件を仕上げ、エピローグで全体を一つにまとめた。

 およそ二週間ほどで書き上がった。


 同時になろうっぽい追放系ファンタジーも書いていたのだが、ミステリに熱が入ったので手が止まってしまった。


 年末が迫っていたが、まだ終わらない。

 純文学の新人賞・文藝賞が1年限りの短編部門を設けていて、その締め切りが大晦日だった。

 せっかくだけど見送りかなーと思っていたのだが、12月になって読んだジョン・スタインベックの短編集(新潮文庫)に心臓を射抜かれた。心理描写の少ない、緊迫感のある書き方に僕は惚れてしまった。


 20枚の短編なら間に合う!

 残り半月で今年も終わるというところからまだ新作を書いた。

 今年見つけた自分のスタイル、心理描写ゼロを貫いて27日に短編を完成させることができた。下限の20枚ちょうどだったが、限界まで客観描写に徹したのだから、増やせる要素は一つもなかった。これを応募して2022年の公募は終了。連作ミステリは推敲して年明けに送ることにした。


 2022年は忍耐の年と表現できる。

 300枚以上の長編を五本、中編を一本書いたが、中編がすばる文学賞の一次を通っただけで他は全部一次落ちだった。こんなに一次でつまずいたのは久しぶりだ。

 一方、2023年に向けて新作である連作ミステリは準備できているし、今後書きたいアイディアもまだまだ持っている。

 今年は物理トリックと短編ミステリの書き方のコツを掴み、純文学は自分のスタイルを確立した。

 まだぎこちないところはあるが、書き続ければ形は整っていく。

 今年はより多様な作品を書くための、準備の年だった。

 そう考えて、前向きに2022年を終えた僕だった。年越しそばと甘栗を食べすぎて胃を痛くしながら眠った。そういう年もある。

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