2023年

量産体制を維持する

 年が明けて2023年。いつもように箱根駅伝を見て三が日を過ごした僕は、用意しておいた連作ミステリの原稿を双葉文庫ルーキー大賞に応募した。1月5日のことだ。


 そこからは同じ日常が繰り返された。

 ポケモンSVを午前中にやって、夕方まで読書、夜はネットサーフィン。そんな感じで1月が過ぎていった。


 だが、さすがに何もしないでいるのがだんだん不安になってきた。月末からプロットを作り始め、2月1日から新作に着手した。


 異能者が跋扈する裏社会を舞台にした特殊設定ミステリで、麻耶雄嵩さんの『さよなら神様』から着想を得ている。ラノベミステリに興味があったので、最初からそちらの新人賞を狙うつもりでキャラを作った。これは3週間ほどで書き上げた。


 当初は2月末締め切りのファンタジア大賞後期に応募するつもりだったのだが、ファンタジア文庫のラインナップや歴代受賞作を眺めてみるとまったくカラーが合っていない。


 すると4月まで待って星海社FICTIONS新人賞か?――と思った。ここでその星海社に動きがあった。京極夏彦さんなどを見いだした編集者Kさんが星海社に入るというのだ。最初はいい意味で驚いたが、Kさんの肩書きが「軍師」だったり、座談会での紹介のノリが好きになれなかったり、正直、一連の流れを寒いと感じてしまった。そのせいで送ることにためらいを覚えた。


 そこで締め切りの先送りは1ヶ月にとどめ、MF文庫Jライトノベル新人賞に出そうと決めた。MF文庫はミステリ色の強い作品を定期的に刊行しており、『また殺されてしまったのですね、探偵様』『迷探偵の条件』などは持っているし読んでいる。送り先が決まればスケジュール管理をしっかりして推敲するだけだ。


 3月末は新人賞の締め切りが大集中していてどこに送るか毎年迷う。まずMFが確定し、文藝賞にも送りたいと思った。年末に短編部門に参加した時、通常部門にも出せたらと考えていたのだ。


 また、昨年知り合った創作仲間の人たちとは定期的にオンラインで集まっていた。で、みんな創元ミステリ短編賞に応募するつもりだから、早めに完成させて意見交換会をしませんか、と2月の通話中に提案された。


 ミステリーズ!新人賞がリニューアルされた創元ミステリ短編賞。第一回なので参加する意義はある。ただ、その時はラノベミステリが思うように進まなくて焦っていたので、「間に合ったら……」と消極的な返事をしていた。


 そちらが無事に完成したので、僕は3月になると二本の短編に取りかかった。


 2月に同郷の芥川賞作家、丸山健二さんの『暗闇淵やみわだの輝き』という作品集を読んだのだが、これが圧倒的な大傑作だった。人生ベストワン短編集と断言してしまってもいい。これから先、これほどの短編集に出会えるだろうかと思ったくらいだ(絶版なので気軽に勧められないのが最大の難点)。僕もこんな作品を書きたいと強く思って、丸山作品(初期)を意識しつつ純文の原稿を進めた。


 合わせてミステリも書く。こちらは連城三紀彦さんの短編「顔のない肖像画」からアイディアを頂戴した。というか、これってこういう真相なんじゃないの? と予想したら外れたので、じゃあ自分で使ってしまおうと思ったのだ。


 純文の方にかなりの手応えがあって、最初はそちらばかり書いていた。創元の意見交換会のため、3月10日までにミステリを仕上げないといけなかったのに、なかなか気持ちの切り替えができなかった。


 とはいえ、どちらも10日までに書き上げることができた。創元が規定枚数のほぼ真ん中である60枚。純文は文藝賞の下限枚数ギリギリの100枚ちょうどという結果に。こちらは少し加筆して枚数に余裕を持たせた。


 かくして一本が結果待ち、三本が応募待機状態に入った。昨年からの量産体制は今年も維持できている。いい流れだと思った。

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