明暗分かれる
9月に小学館ライトノベル大賞、10月に鮎川哲也賞への応募を終えた僕は、11月を読書期間に充てた。
さすがに、今年はこれ以上書けそうにない。
新しいプロットを作っておき、年が明けると同時にまた書き始めればいいと思った。
そんな中、大きな変化があった。
母親が会社を辞めたのだ。
以前から部署によるいがみ合いのようなものが続いていて、人間関係に疲れてしまったのだという。あと二年で定年となる母だったが、あの場所にいたら精神を病みそうだということで、退職届を出した。
こうして家族全員が無職になった。僕と弟は春になればまたそれぞれ観光施設に戻るので、冬期間だけだが。
実家暮らしの強みは、家賃に悩まされることがないところだろう。僕の収入は考えるまでもなく同世代の平均年収より圧倒的に低いが、支出も少ないので普通に生活する分には困らない。散財するのは本を買う時だけであり、実際、通帳の数字も着実に増えていた。
11月の終わり頃。
家族の間でこんな話が持ち上がった。
僕に、短期間アパートを借りて創作に集中したらどうかというのだ。
初の最終候補がよっぽど効いたらしく、家族の期待は膨れ上がっているようだった。
母が家にずっといるので、認知症の祖母の面倒をいつでも見られる。だからお前は小説のことだけ考えろ、というわけだ。
面白そうではあったが、母と弟に負担をかけるだけのような気がして、すぐには頷けなかった。それに、そうした環境で書いた作品が一次で落とされるようなことがあったら目も当てられない。
しかし、家族は僕のことを本気で支援してくれる構えだった。加えて、統合失調症の癒えない僕が、もっとも祖母から精神的ダメージを受けやすい事情も考えてくれたらしい。少しでも離れていれば改善が見られるのではないか、という話もされた。
そんなわけで、アパートを三ヶ月だけ借りることにした。1月の2週目から3月下旬まで。数ヶ月のために家具家電を用意するのももったいなかったので、最初からすべてそろっているレオパレスを選んだ。何かと評判の悪いところではあるが、最初の会社に勤めている時もレオパレスに住んでいたから、諸々理解している。そして短期契約の場合、家賃を水道光熱費込みの一括で支払えるところも便利だった(規定の数値を超過すると追加の支払いが必要になる仕組み)。
11月中に契約し、家賃を前払いした。残高を見てちょっとさみしくはなったが、受賞して取り返そうと前を向いた。
そんな動きがあった中、電撃小説大賞に応募した「蒼海のガンマディオラ」への評価シートが送られてきた。
評価をつけてくれた編集さんは二人。どちらもキャラが元気で楽しいと書いてくれていた。一方で設定とストーリーには既視感がありすぎ、飛び抜けた強みがないと指摘された。
また一人は「新味が皆無なのに、作品の完成度自体は高いので直しようがない(※大意)」というなんとも反応に困るコメントをつけていた。
まとめると、既視感が強すぎたために勝ち上がれなかった。でもキャラは良い。そういうことらしかった。
設定については考えなければならない。しかしキャラクターを褒めてもらえたのは嬉しかった。ラノベはキャラが命。ここは伸ばしていきたいと思った。
それからしばらくして、11月30日の深夜。
僕は「ステラのまほう」というアニメを見ていた。始まると同時に日付が変わった。
「ガガガ文庫の一次出たね」
――と、ツイッターのフォロワーさんがつぶやいた。
そういえば小学館ライトノベル大賞は12月1日になった瞬間に発表されるのだったか。
僕はアニメを横目に、スマホで新人賞サイトに飛んだ。
一次通過者の名前が並んでいる。
画面をゆっくりスクロールさせていった。自分のペンネームと、「山猫戦線」というタイトルを探した。
……が、どこにもなかった。
何度も繰り返し確認したが、やっぱり見つからなかった。
……いつもの自分に戻ったな……。
そう思わずにはいられなかった。
と同時に、思うことがあった。
11月30日締め切りのGA文庫大賞。この新人賞はWeb応募のみ可能なのだが、応募フォームのメンテナンスのため、締め切りを1日延ばすという話を聞いていたのだ。
たらい回しのように応募するのはよくないことだと思いつつも、出してみたいという気持ちが強くなった。
朝起きると、一日かけて「山猫戦線」の改稿を行った。何が原因で落とされたのかわからないので、気になるところは直せるだけ直した。展開やキャラの台詞回し、タイプミスのチェック、どんでん返しに矛盾が出ていないかなど。
一日中PCに張りついていたら夜の10時になっていた。これ以上見直しても変わらないと思い、応募することにした。滑り込み応募の人が多いのか投稿フォームがやけに重たく、少し手間取ったが、無事に出すことができた。
やがて12月も進み、年の瀬がやってきた。
12月27日。
夕方、早めに風呂に入った。部屋に戻ると携帯が点滅している。メール画面を開くと、東京創元社からだった。「ヒョウキンダルマ獄」が鮎川哲也賞の一次選考を通過したという内容だった。メール通知希望者はアドレスを書いておけば連絡してくれるのである。僕はすぐさま東京創元社のホームページに飛んで、そちらでも確認した。
ラノベ新人賞では結果が出せない一方で、ミステリ方面は成長が見えてきた。
鮎川哲也賞の二次選考は1月下旬。そこで最終候補者が決定される。あとはもう祈るしかなかった。
そして2016年が終わった。
上半期は散々で、下半期は上々。そんな一年だった。貴重な経験もたくさんさせてもらい、収穫の多い年だったことは間違いない。
来年こそデビューだ。
そう強く思った。
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