待ってろよファンタジア大賞
A君からの返事はすぐにあった。
突出した部分はない。けれど、全体的に安定して読める。
だいたいそんな感想をもらった。
初めて書いたラノベだし、まずまずの反応じゃない? と僕は思ったものだ。
A君は続けた。
「ついでに、うちの母親にも読ませてみた」
「ええ!?」
さすがにびっくりしたが、A君のお母さんはラノベにも理解があるのだという。
その返事だが、ラスボスである敵艦長が小物っぽい、という。
読み返して、確かにそうかもと思った。
この艦長、怒鳴り散らすシーンが多いのだ。
叫んでばかりで余裕が感じられない。したがってカリスマ性もないように思える。
まったく反論できない指摘だった。
これを受けて、僕はすぐ修正に入った。
艦長のセリフはほぼすべて書き直した。
イメージする単語は「冷酷非道」。常にクールで、他人を見下したような物言いをするキャラクターに生まれ変わった。
すると、熱い性格の主人公との対比も生まれ、よりキャラの関係性に広がりが出たように感じられた。
熱い主人公と怒鳴りまくるラスボスでは、暑苦しいことこの上ない。
文章にも細々と修正を入れ、誤字脱字のチェックは念入りに行った。
そうしているうちに、締め切りである8月31日が近づいてきた。
僕は募集要項を再読し、あらすじ作成に取りかかった。が、規定では「2000字程度のあらすじを添付」と書かれている。
小説を書いたことのある方ならなんとなくわかっていただけると思うのだが、これはかなり長い。ストーリーをざっくりまとめるなら、半分もあれば充分だ。とりあえず書いてみたが、なかなか届かない。なので、細部まで具体的に書いて規定の文字数まで持っていった。
あとはプロフィールシートへの記入……と思ったところでまたしても問題発生。
実家にはネット環境がないのだ。
プロフィールシートがダウンロードできない!
僕は慌ててネットカフェに出かけた。
先にも書いたが、僕の実家は山奥にある。市街地へ出るのにバスで一時間かかる。なのでちょっとしたお出かけのハードルが高い。それでもなんでもやるしかなかった。
ネットカフェでプロフィールシートを落とし、早速記入しようとしたのだが、どうやっても入力できない。あれこれ試したが、ファイルへの書き込みが不可能になっているのだ。僕はパソコン関連の知識がまったくないので困り果てた。
悩んだ末、3枚ほどプリントアウトして持ち帰った。手書きで必要事項を埋めていくことにした。予想通り1枚目を書き損じたので複数刷ってきて本当によかったと思った。
ここでも悩みが発生した。
ペンネームを決めていなかった。
当時利用していたエブリスタの登録名は人間の名前っぽくなかったので使いにくい。
結局、本名を一文字変えただけの味気なさすぎる名前を書いた。
色々な問題が発生したこともあり、日付は8月31日を迎えていた。当日消印有効だから焦ることはなかったけれど。
猛暑の中、僕は原稿を封筒に入れ、郵便局へ向かった。震える手でポストに投函する。
応募……完了!
2010年8月31日。
第23回ファンタジア大賞に原稿を送った。
僕の投稿人生の幕が開いた日である。
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