ヤングマガジン原作持ち込み記録
2月5日。
27歳の誕生日。
僕は予約しておいた高速バスに乗って東京へ向かった。新幹線でもよかったのだがバスの方が圧倒的に安かったので、速さより安さを取った。
高速バスは長野駅前からバスタ新宿に向かう。
以前コミケに行った時も同じバスを使ったが、あの時は新宿駅の手前で降りたはずなので、降車場所が変わったらしかった。
新宿に降り立った(大げさ)僕は、すぐさま新宿駅の中へ入った。
講談社までのルートはよく調べて頭に入れてあった。
新宿駅から総武線に乗って飯田橋へ、そこから東京メトロに乗り換えて護国寺駅で降りる。
約束の時間は午後3時だった。
飯田橋に着いたのがまだお昼過ぎだったので、いったん駅の外へ出た。
平日なのに休日の長野駅前くらい人がいて「うへえ」という感じだった。
道路を渡って近くのコンビニでパンを買った。――がイートインがなく座れそうな場所も見当たらなかった。なのでひとけの少ないところでやむをえず立ったまま食べた。
すぐ近くにブックオフがあったのでレア本を発掘すべく店内をくまなく回ったがほしい本には出会えなかった。
2時過ぎ、飯田橋から護国寺駅に移動。
6番出口から出ると講談社がすぐそこにあると聞いていたので外に出て振り返ったら本当に講談社のビルがそびえていた。
まだ少し時間があったので通りをふらふら歩き、直前にコンビニでトイレに寄ってから講談社のビル内へ入った。
受付でヤングマガジン編集部への持ち込み、担当はYさんと伝えると入館証を渡された。
エレベーターに乗ると、そこにいた方に「何階ですか?」と訊かれたので受付の方に言われた階数を答えた。
そこで下りると、まっすぐ編集部の中へ入っていった。入り口に『進撃の巨人』の大きなパネルが置いてあった。
「ヤングマガジンに持ち込みに来た者なんですが……」
と近くにいた方に声をかけると、
「ヤングマガジンはまだ上ですよ?」
と言われた。
受付の方がたまに間違えることがあるらしい。
僕が入ったのは少年マガジンの編集部だった。『進撃の巨人』パネルを見ておかしいとは思ったのだ。ちょっと恥ずかしかった。
再びエレベーターで上階へ。
下りて正面のドアから入ると、今度こそヤングマガジンの編集部だった。
原稿を読んでいただいたYさんはまだ会議中らしく、テーブルについて待つことになった。
隣のテーブルでは「今後を考えるとこの展開はアリですねー」と漫画家さんと思わしき方と編集者の方が三人で打ち合わせをしていた。
僕は、自分がひどく場違いな場所にいるような気がしてとにかく恥ずかしかった。顔が熱くて汗が止まらなかった。
3時を少し回った頃、Yさんがやってきた。
僕はびっくりした。
Yさんが、最初の職場で仲良くしていた先輩にあまりにもそっくりだったからだ。
Yさんが僕のネーム原稿をテーブルに置いた。
挨拶のあと、持ち込み対談開始。
「読ませていただいたんですが、連載するには弱いと思いました」
真っ先に結論から言われた。
Yさんは具体的に、原稿のどこが弱かったかを説明してくれた。
キャラの個性が弱いこと、先行している高校野球漫画と比べて独自性を打ち出せていないことなど。
監督のセリフが多く、チームの方向性については1話から発言させていた。こうした部分を見ると、監督を主役にした方がしっくりきそうだとも言われた。
結果的に弱点だらけの原稿だということがよくわかった。
さらにYさんは、
「僕、『砂の栄冠』の担当をしていたんですよ」
と言った。
三田紀房さんが手がけた、高校野球漫画の傑作の一つ。これは分が悪かった、と思った。
いくら僕が実際の高校野球を経験してきたとはいえ、それを漫画に落とし込めるかはまったく別の問題だ。指摘が恐ろしいほど的確だったので僕はよーく納得した。
しかし、1時間かけて丁寧にどう直していけばいいのかをアドバイスしていただいたのでやる気が出た。すぐさま新しいネームを作ることはないだろうが、いつかきっとこの持ち込みで得たことを作品に活かしてみせる。そう思った。
帰り際、Yさんが「今日はうちだけですか?」と訊いてきた。そうですと答えると、
「編集部によって求める作品が違うので、色んなところに持ち込んでみるのもいいと思います。せっかく遠くから来てるんですから一ヶ所だけじゃもったいない」
と言ってくれた。次に来る時は予定を立てて来よう。
講談社を出た僕は、新宿まで戻ってブックオフに入りまたレア本を探したがこれといったお宝には巡り会えなかった。
午後7時。
僕は再び高速バスに乗って東京を離れた。
次に持ち込みをするとしても当分先になるだろう。それまでに小説の方でデビューが決まってしまえば一番いい。
次はどんな形でやってくるか。
すべては今後の自分次第だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます